槐樹えんじゅ)” の例文
S会館の内に三間みまの部屋がある。言い伝えに拠ると、そのむかし中庭の槐樹えんじゅの上に首を縊って死んだ女が一人あった。
「吶喊」原序 (新字新仮名) / 魯迅(著)
やがて自動車がそれと覚しき槐樹えんじゅの植込みの茂った前庭付きの立派な洋館の前へ止ると、私は家を見上げ見下ろし、今更のごとくたたずまざるを得なかった。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
目は庭前の槐樹えんじゅの茂みに向かってしばらくはいたが、実は何ものをも見ていなかった。うつろな耳で、それでも彼は庭のどこからか聞こえてくる一匹のせみの声に耳をすましているようにみえた。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)