致仕ちししたひととはいえ三家の長者ちょうじゃ、前副将軍黄門こうもんである。閣老かくろう側衆そばしゅうたりとも甚だしくあつかい難いのである。ことに春雷一震しゅんらいいっしんのような畏怖をおぼえたのは大奥の女人国にょにんこくだったにちがいない。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)