旅行鞄りょこうかばん)” の例文
そして青年の前には、かなり大きな旅行鞄りょこうかばんが置いてあった。鞄に縫いつけられた厚紙には、大きな黒い文字の名前が見えていた、「マリユス・ポンメルシー。」
ぎっしりと詰った旅客たちの間にはさまれ、彼も岸の方へ進んで行くのだが、彼の旅行鞄りょこうかばんには小さな袋に入れた糸瓜へちまの種が這入っていて、その白い種の姿がはっきりと目にちらついてならない。
冬日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
マリユスはどこへ行くとも言わず、またどこへ行くつもりか自分でも知らず、三十フランの金と、自分の時計と、旅行鞄りょこうかばんに入れた二、三枚の衣服とを持って、家を出て行った。