「そら、馬車が来ましたよ、そら、馬車が!」とチチコフは、ようやく自分の半蓋馬車がこちらへやって来るのを見ながら、叫んだ。
そうこうするうちに半蓋馬車はいよいよ寂しい街から街を通り抜けて、やがて市街もこれで終りらしく、木柵だけが長くつづく傍らへと出た。
「僕が別の半蓋馬車を君にやるよ。さあ物置へ一緒に来たまえ、そいつを君に見せるからさ! 塗替さえすりゃあ、素晴らしい馬車になるぜ。」
よく独身者が乗りまわすような例の小型の半蓋馬車と、二人の農奴——馭者のセリファンに従僕のペトゥルーシカ——とが残っているだけであった。
この半蓋馬車の形は少し傾いてゐて、右側が左側より余ほど高かつたが、それがまた彼女にひどく気に入つてゐた。