抽斎はかつて自ら法諡ほうしを撰んだ。容安院ようあんいん不求甚解居士ふきゅうじんかいこじというのである。この字面じめんは妙ならずとはいいがたいが、余りに抽象的である。これに反して抽斎が妻五百いおのために撰んだ法諡は妙きわまっている。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)