)” の例文
「自己の自由をげて公同の自由を伸ばす」とのいいにして、貧富智愚の差等にかかわらず人民みな平等に自由を享有することを指す。
近時政論考 (新字新仮名) / 陸羯南(著)
しかしまもるところのものは、権利、自然の大法、一歩もぐることのできない各人の自己に対する主権、正義、真理、などである。
磐城平より当然海岸伝ひに北上いたすべき道を左にげ候事、好会また期し難き興もこれあり候次第、しからず御諒察下され度候。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
今でも私はこの立場をいささかもげているものではない。人間には誰にもこの本能が大事に心の中に隠されていると私は信じている。
想片 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
こんな事を云うたら非常な不愉快を感じられるかも知れないが、それが戦場の慣わしと思ってげて承服して頂きたいものです。
戦場 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼の著述した戦史研究等も全く主観的で歴史的事実に拘泥する事なく、総てを自己の理想の表現のためにげておる有様である。
戦争史大観 (新字新仮名) / 石原莞爾(著)
党の規律は私事をもってぐべからず、すなわち涙をふるってまず彼を断罪したるものなることを閣下に報告するの光栄を有す。
鉄の規律 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
余は八王子に一泊するを好まざりしといへども、老人の意見げ難く止むことを得ずして、俗気都にも増せる市塵しぢんうちに一夜を過せり。
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
この原理誤りせられてそのかみ殆ど全世界をげ、これをして迷ひのあまりジョーヴェ、メルクリオ、マルテと名づけしむ 六一—六三
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
げて、御苦労には存じますが、京都までお運び下さいますよう。長政の面目めんぼくも立ちまする。かくの通り、おねがい申しあげます
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の性質は傲岸ごうがんで、みずから直情径行を誇り、いかなるばあいにも、自分で「よし」と信ずることをげたためしはなかった。
然し、俺は俺で又自ら信ずるところあつて遣るんぢやから、折角の忠告ぢやからと謂うて、げて従ふ訳にはいかんで、のう。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
また一面には、自分の所信にしてもし俗情に全然かなわない時に於ては、私は出来るだけ譲って、主張をげることもする。
ソクラテス (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
しかしこれは民本主義を否認するか、少なくともその当然の適用をぐるものであるから今ここに問題とする限りではない。
人の不正を見て、これを正すのが役でないか? その目付が、自ら、法をげて、軽々しくも、辻番所へ出張するなど、近頃以て、奇怪千万。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
彼も今度の不覚を恥じて、定めて懸命の秘法を凝らすに相違あるまいと考えられるから、げてもう一度、彼の願意を聴きとどけてやりたい。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
良家の女子、強いて禽妝きんしょうを委して、※気冤氛れいきえんふん、暗く天日無し。奴僕どぼく一たび到れば、則ち守令顔をけ、書函一たび投ずれば、則ち司院法をぐ。
続黄梁 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
京兆の尹は、事が余りにあらわになったので、法をげることが出来なくなった。立秋の頃に至って、つい懿宗いそうに上奏して、玄機をざんに処した。
魚玄機 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
小作人たちが内地から移住してきたときに、開墾について小作人たちに約束したことは、生命いのちに懸けてもげようとなんかしていなかったんだ。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
しかし心の底では、偶然の機会で自分のひねくれた考えをげなければならないのを、別にいやだとも思ってはいなかった。
大硯君足下。こんな事を言ふのは、お互ひ立憲國民として自ら恥づべき事ではあるが、然し事實は如何ともげがたい。
大硯君足下 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
げ、辞を低うして仕官を求める諸国諸大名をことごとく袖にして、こうして、酒をくらってどこにでも寝てしまう巷の侠豪、蒲生泰軒です。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
もしこれがてんから人のためばかりの職業であって、根本的に己をげて始て存在し得る場合には、私は断然文学を止めなければならないかも知れぬ。
道楽と職業 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
又好悪ノ出来ルト云フコトナリ、危キ事ヲモ犯シテ為サネバナラヌ、心ニ思ハヌ事ヲモゲテ行ハネバナラヌナドト、心苦シキコトノナキ趣意ナリ。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
しかし、事実はげがたい。そこで、わが京都の料理も、いつの間にか末に末にと走りつつ、邪曲の路に行くものであることを思わずにはいられない。
「先生、突然で恐縮ですが、來年の文章日記へ、ひとつご揮毫きがうをお願ひしたいんですが、どうかげてひとつ……」
足相撲 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
……手前が申すことを、なにとぞ御信用くださって、ただいま申しあげた次第、げてお聴きずみ願わしく存じます
顎十郎捕物帳:16 菊香水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
しかも美しく才かしこくして位高き際の人に思はれながら、心の底には其人を思はぬにしもあらざるに、養はれたる恩義の桎梏かせこゝろげて自ら苦み
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
謀る場合、貴殿がいては、我々も心苦しいし、貴殿も心苦しかろう。今日だけは、げて御中座が願いたいが……
仇討禁止令 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
県では尾白おじろ渓谷の御探勝を頻りに希望して、そこへ御歩をげさせ給うよう再三の願であったが、正午迄には台ヶ原の御休息所へ御到着の思召おぼしめしに加えて
その能力をひがまず、げず、自由に発揮することの出来る機会を与え、社会もまた出来るだけ三女史の意見に聞いてそれを利用して欲しいと思うことです。
〔譯〕已むことを得ざるのいきほひうごけば、則ち動いてくわつせず。ぐ可らざるのみちめば、則ち履んであやふからず。
そこで余儀なく自己の意思をげ、不快を忍んで勢力のある方に投票すると、こういうことに成ったのである。
選挙人に与う (新字新仮名) / 大隈重信(著)
人は外界の事情に制せられて、己れの意志をげて心ならざる事を行ふ。此隠秘の関繋を説明するを至要とす。
大久保湖州 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そうして事ひとたび鉱毒のことになると、元来正直一途で多血な正造は、所信を主張してげなかった。自然と周囲から固執を以て見られるようになった。
渡良瀬川 (新字新仮名) / 大鹿卓(著)
それをどこまでもげまいための横着さといふものがあつて、何うかすると、現実的な利益の外には、どこまで掘つて行つても、他人の愛情の手にすがるとか
チビの魂 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
「貴方は、孔夫子に対して、げて弟子の礼を執っていられるのではありませんか。どうも私には、貴方が孔夫子よりもまさっていらっしゃるように思えますが。」
論語物語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
かれ小言こごとみゝへもれないで「ねえようろよう」と小笊こざるげてはちよこ/\とねるやうにして小刻こきざみにあしうごかしながらおつぎのめることばうながしてまない。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
またいわく、「親と主人は無理を言うもの」などとて、あるいは人の権理通義をもぐべきもののよう唱うる者あれども、こは有様と通義とを取り違えたる論なり。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
本年島崎藤村子亦門弟子の為に遂に意をげて誕生五十年の賀宴を張るの已むを得ざるに至れりという。文壇の若輩常に個人の自由を主張し個性の尊重すべきを説く。
偏奇館漫録 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
用向は会へばわかるが、とにかく今夜是非お目にかけたいものがある、げてご都合を願ふと、贔屓ひいきの番頭といふ声色を作つた。すると、やがて園子が電話口へ出た。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
「遅なわって、相済まぬが、平馬折入ってお願いもござるし、かつは、是非とも御目通りいたさせたい人間を拾いましたで、げて御面謁ごめんえつが願いたいと、おおせ入れ下さい」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
なお帰らねば廃嫡はいちゃくせんなど、種々の難題を持ち出せしかど、財産のために我が抱負ほうふ理想をぐべきにあらずとて、彼はうべな気色けしきだになければ、さしもの両親もあぐみ果てて
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
最後に、喜田は歴史を喰い物にして、それを押売りする不徳漢だとか、喜田は歴史研究の結果をげて、しいて融和の援兵に使っている、偽学者だとかいう非難があります。
それから少したって又(短刀で一寸だめし五分だめしだ)と、憎々しく口をげて云いました
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これは、貴方さまのため、私どものため、ぜひげても、お聴き入れねがいたいと存じます。
人外魔境:10 地軸二万哩 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
酷吏として聞こえた一廷尉ていいが常に帝の顔色をうかがい合法的に法をげて帝の意を迎えることに巧みであった。ある人が法の権威を説いてこれをなじったところ、これに答えていう。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
測らず 跬歩きほ敢て忘れん慈父の訓 飄零ひようれいげて受く美人の憐み 宝刀一口ひとふり良価を求む 貞石三生宿縁を証す 未だ必ずしも世間偉士無からざるも 君が忠孝の双全を得るにつく
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
自然の方則は人間の力ではげられない。この点では人間も昆虫も全く同じ境界きょうがいにある。
津浪と人間 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
神は罪悪がそれ自身の中に刑罰を含むことを知るが故に、常に憐憫れんびんの眼もて、すべての人の過誤を見、げられぬ道徳律の許す範囲内において、傷ける者の苦悩を和げようとする。