勤行ごんぎょう)” の例文
が、尊氏は、はや勤行ごんぎょうの座について、読経をあげていた。——その三昧ざんまい一念な背を見ると彼はぜひなく遠くにそっと坐ってしまった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
当時安息日に、国教寺院の勤行ごんぎょう終ると直ぐこの派の説教始まり、その都度欠かさずこの犬が来たからメソジスト犬と称えられた。
隠遁はじつに霊魂の港、休憩所、祈祷きとう勤行ごんぎょうの密室である。真の心の静けさと濡れたる愛とはその室にありて保たるるのである。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
山寺の一室に行李こうりいた宣揚は、遠く本堂の方かられて来る勤行ごんぎょうの声に心を澄まし、松吹く風に耳をあろうて読書三昧ざんまいに入ろうとしたが
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
お寺に近づいた時我々はお経のように響く妙な合唱を耳にして、これは何か宗教上の勤行ごんぎょうが行われつつあるのだなと思った。
時刻をしらせるのではない、寺の勤行ごんぎょうの知らせらしい。ほかの時はわたしもいちいち記憶していないが、夕方の五時だけは確かにおぼえている。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
礼拝堂の勤行ごんぎょうをおこなうために、彼はたいへんな費用をかけて、信心ぶかい、堂々たる恰幅かっぷくの家庭牧師をやとっている。
「日本の平清盛と申す人は、摂津和田の岬四面十余町に家をつくり、本日の法会のように、数多くの持経者じきょうしゃを呼んで、説法、勤行ごんぎょうを務めております」
勤行ごんぎょうの時間には、柄の曲がった籐杖とうづえにもたれて、黒い線と銀のふさのある白い腕章をつけ、教会堂の入り口に見張りをしてる、彼の姿が見受けられた。
ややしばらく待っていると、勤行ごんぎょうを終った正兵衛は、水晶の念珠をたもとに納めて、静かにこっちへ向き直りました。
そうして、阿弥陀如来の前に来たかと思うと、真下にあたる勤行ごんぎょうの座につき、手燭をかたわらに置いて言った。
死体蝋燭 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
所が、先月に入ると、毎夜のように薬師堂で狂気のような勤行ごんぎょうをするようになったのです。ですから、自然私から遠退いて行くのも無理では御座いませんわ
後光殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
御仏に後夜ごや勤行ごんぎょう閼伽あかの花を供える時、下級の尼の年若なのを呼んで、この紅梅の枝を折らせると、恨みを言うように花がこぼれ、香もこの時に強く立った。
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
と、折しも本堂では、老僧の声で物も哀れに普門品ふもんぼんを読誦しつつ、勤行ごんぎょうかねが寂しくきこえて来ます。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
松の辺にはらぬと見て、けずり歩行あるいて、捜しまわった、はぎの泥の、はねだらけで、や、お仏壇の前に、寝しなのお勤行ごんぎょうをしておった尼の膝に抱きついた。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こんなに勤行ごんぎょうをおこたらない松雲のよくまもっている寺を無用な物として、それを焼き捨てねばならないというは、ほとほとだれにも考えられないことであった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
大祭典の日には、特に聖マルタの日には、修道女の服装をして、終日聖ベネディクトの祭式と勤行ごんぎょうとをなすことが、非常な恩恵としてまた最上の幸福として許されていた。
此処ここはわしの死場所のようなところであるから、勤行ごんぎょうのすみ次第にかえってまいります。」
あじゃり (新字新仮名) / 室生犀星(著)
これまでは宗玄をはじめとして、既西堂きせいどう金両堂こんりょうどう天授庵てんじゅあん聴松院ちょうしょういん不二庵ふじあん等の僧侶そうりょ勤行ごんぎょうをしていたのである。さて五月六日になったが、まだ殉死する人がぽつぽつある。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
何か知らんとすかして見れば、樵夫きこりが立てましたか、たゞしは旅僧たびそう勤行ごんぎょうでもせし処か、家と云えば家、ほんの雨露うろしのぐだけの小屋があります。文治は立止って表から大声に
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
暁の光、いまだに堂内に入らざるに、香の煙は中に充ちわたり、常燈じょうとうの明りおぼろなるところ、勤行ごんぎょうの響きが朗々として起る。鬱陶うっとうしいようでもあり、甘楽かんらくの夢路を辿たどるようでもある。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
教会堂へつくと、殆んどがら空きな脇間の祈祷台に膝まずいて、両手を組み合せ頸をふりふり、牧師の声に合せて低声こごえでおいのりをした。そして勤行ごんぎょうがすむとさっさと帰って行くのだった。
老嬢と猫 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
夕べの勤行ごんぎょう誦唱ずしょうも極楽浄土のひびきを伝えながら、暮れました、暮れました。
満山の蝉しぐれがうら悲しいひぐらしの声に代り、やがて森の梢がそろ/\黄ばみ始めた時分である。瑠璃光丸は或る日ゆうべの勤行ごんぎょうを終って、文殊楼の前の石段を、宿院の方へ降りて行くと
二人の稚児 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼等は静かな勤行ごんぎょうの生活のうちに、過去のなつかしい思い出を深く深く掘ってゆく。その思い出が親しくなり美しくなるに従って、それを寂滅為楽の途に進むことと思っているらしいんだ。
恩人 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
耳をすますと、ずっと奥の方で鈴をふるような音が聞えるので、勤行ごんぎょうの最中でもあろうかと思ったが、それは中宮寺の後の野辺から立ちのぼって頭上はるかにさえずっている雲雀ひばりの声であった。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
勤行ごんぎょうは静粛に秩序整然と、物悲しげに始められた。彼はずっと子供の時分から、死を意識し死者の存在を感じるたびに、なんとなく重苦しい神秘的な恐ろしいものが、そこに伴うのであった。
日曜日の弥撒ミサに、ドイツ人もフランス人も、イタリイ人も、それからまたポオランド人、スペイン人などまで一しょくたに集まってくる、旧教の聖パウロ教会なんぞは、そんな勤行ごんぎょうをしている間
木の十字架 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
(鐘の音)……あれは寺々が夕方の勤行ごんぎょうの始まりをしらせる鐘の音だ。御覧ごらん。太陽が西に傾いた。黄昏たそがれが平安の都大路みやこおおじ立籠たちこめ始めた。都を落ちて行くものに、これほど都合つごうのよい時刻はあるまい。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
「さあ、どうで御座いますか。あの娘の心持は私には分りませんが、何んでも毎日の勤行ごんぎょうのようにして、幾年か掛かって書きためたのですが、一心のこもったもの故、こうして置くのは勿体なく……」
勤行ごんぎょうの責め打つ太鼓明易き
七百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
この端麗で、そして威のある姿が、朝の勤行ごんぎょうに、天井てんじょうのたかい伽藍がらんのなかに立つと、大きな本堂の空虚もいっぱいになって見えた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
和泉堺のある寺の白犬勤行ごんぎょうの時堂の縁に来て平伏したが餅をのどに詰めて死し、夢に念仏の功力くりきで門番人の子に生まると告げ果して生まる。
「私は煙になる前の夕べまで姫君のことを六時の勤行ごんぎょうに混ぜて祈ることだろう。恩愛が捨てられないで」
源氏物語:18 松風 (新字新仮名) / 紫式部(著)
修禅寺の鐘は一日に四、五回く。時刻をしらせるのではない、寺の勤行ごんぎょうしらせらしい。ほかの時はわたしも一々記憶していないが、夕方の五時だけは確かにおぼえている。
春の修善寺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
世をいといながら三時の勤行ごんぎょうを怠らない和尚を助けて、お島は檀家だんかのものの受けもよく、台所からたすきをはずして来てはその囲炉裏で茶をもてなしてくれたことを半蔵らも覚えている。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
三左衛門は僧の人の来るのを嫌うのは、勤行ごんぎょうの邪魔になるから嫌うのだと思った。
竈の中の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
禅宗曹洞派そうどうはの流れをうけた男禁制の清浄このうえない尼僧道場で、当時ここに仏弟子ぶつでしとなって勤行ごんぎょう観経かんきん怠りない尼僧たちは、無慮二百名にも及ぶと注せられたほどでしたが、それかあらぬか
この那智の御山は、創立以来、古くから、貴賤上下の信仰の聖地としてあがめられてきたもので、いつでも参詣する者も絶えることなく、勤行ごんぎょうする僧の数も減ったことがないといわれる程である。
声高い朗吟が聞える。そのすべてにまざって、近所で僧侶が勤行ごんぎょうをする、ねむくなるような唸り声が伝って来る。まったく、僧侶たちが祈祷する時に出す音は、昆虫の羽音と容易に区別しがたい。
寺僧はよろこんで、臨時に七日の念仏を勤行ごんぎょうした。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
暁の勤行ごんぎょうまで。
毎朝、夜の明けないうちからする勤行ごんぎょうかねが、回向院えこういん裏まで聞えて来る頃、いつもそれを時刻に、雨戸を開ける豆腐屋の夫婦であった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
勤行ごんぎょうが済み次第参ろうとあって、やがてついて一泊し、明朝出立に臨み前夜通りの挨拶の後、僧また汝が朝始めた業はくれまで続くべしと言って去った。
律師が尊い声で「念仏衆生ねんぶつしゆじやう摂取不捨せつしゆふしや」と唱えて勤行ごんぎょうをしているのがうらやましくて、この世が自分に捨てえられない理由はなかろうと思うのといっしょに紫の女王にょおうが気がかりになったというのは
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
荒れ果てた法勝寺のゆかをつくろい、屋根のかやいて、そのわきに、べつに粗末な一庵を建てて、やがて、朝夕ちょうせき勤行ごんぎょうの鐘も聞えだした。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仏寺にも勤行ごんぎょう修学の時を規すため、鶏を飼うを忌まなんだは、北院御室の『右記』に、寺の児童小鳥飼う事は大失たいしつなくとも一切停止す、鶏と犬は免ず、内外典中その徳を多く説けり。
部屋へやの中には一人の女の泣き声がして、その室の外と思われる所では、僧の二、三人が話しながら声を多く立てぬ念仏をしていた。近くにある東山の寺々の初夜の勤行ごんぎょうも終わったころで静かだった。
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ふつうの学生がくしょうたちとまじって、範宴は、朝は暗い内から夜まで、勤行ごんぎょうに、労役に、勉学に、ほとんど寝る間もなく、肉体と精神をつかった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
走り湯権現の良暹りょうせんは、大勢の僧をつれて会し、法華ほっけ、仁王、軍勝の三部妙典を勤行ごんぎょうして、鎮護国家のいのりをあげた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)