あら)” の例文
あらゆる忍耐、凡ゆる屈辱、魂と生命の切り売り、その長い辛労の後ではないか。しかもさらに二千円の償いを取る理由がどこにあろう。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
あらゆる人間の姿態と、あらゆる色彩の閃きと、また凡ゆる国籍の違った言葉の抑揚とが、框の区切りの中にぎっしり詰っている。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
おまけに、あらゆる社會状態に共通の、自由とか正義とかいう永久眞理がある。ところが共産主義は永久眞理を抹殺してしまう。
唯物史観と文学 (旧字旧仮名) / 平林初之輔(著)
俺はこういう特徴のある指紋を持っているのだぞ、この指紋の持主こそ真犯人だぞと、あらゆる機会を捉えて広告している。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それをあらゆる角度から玩味し、研究し、社会の客観的な歴史と自分の経験とを照し合わせ、そこから好いにしろ悪いにしろ正直な結論をひき出して
青年の生きる道 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
継母は何故か私の行動に就いてあらゆる監視の眼をそばだてゝゐながら、表面では寧ろ気嫌をとつてゐる、何故に私がそんなに必要なのか解らないが
南風譜 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
勿論光子は、怖ろしがって近付かなかったけれども、杉江はあらゆる手段を尽して、お筆の偏狂を止めさせようとした。
絶景万国博覧会 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そこで反対党はあらゆる手段に訴えて政府の施設に妨害を加えた。果ては愛蘭東北の一角アルスターの統一党員を煽動して内乱を起さしめんとさえした。
かざすだけでいゝ。ずつと遠くに離れた遙かに大きな雲もこれと同じ力を持つてゐる。その雲はあらゆるものを蔽ひかぶせて、何もかも曇らして了ふのだ。
我々があらゆる感情、例えば怒り、憎しみ、または愛にもせよ、すべての感激、冒険といったようなものは、人生及び自然から生起してくる刺戟である。
囚われたる現文壇 (新字新仮名) / 小川未明(著)
普通「対話」と呼ばれる形式は、文芸のあらゆる作品中に含まれ得る文学の一技法にすぎないが、これが「劇的対話」となると、そこに一つの約束が生じる。
舞台の言葉 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
故に進化論上より見たる人生観は性的関係を以てあらゆる人生の進歩に対する出発点と見做さなければならない。
恋愛と道徳 (新字旧仮名) / エレン・ケイ(著)
愛情というもののありとあらゆる力、その一族の狂熱という狂熱が、すべて、サンテーズ家の最後の人間であったその子の身に伝えられてでもいるようでした。
寡婦 (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
さび」とはただ淋しみという事ではなく、仏法の言葉であって、本来はあらゆる執著を去る様をいうのである。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
生活すると云ふ可能性を、あらゆる瞬間において、思ひがけなく否定される障害もあり得る……。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
死はあらゆる経緯いきさつを清算するものらしい。二晩目の通夜つやに集った連中は皆喧嘩相手だった。
変人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
彼女は行きたくも行くことが出来ない。行くべき場所がないからだ。のみならず、大抵の婦人は結婚すると間もなくあらゆる能力を全く失ひ、外界に対して絶対に無能なものと化する。
結婚と恋愛 (新字旧仮名) / エマ・ゴールドマン(著)
巾着切きんちゃくきりから、女白浪——長崎で役を勤めるようになってからは、紅毛碧眼こうもうへきがん和蘭オランダ葡萄牙ポルトガル人、顔色の青白い背の高い唐人から、呂宋ルソン人まで善悪正邪にかかわらず、およそありとあらゆる
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
力が入るようにするのであろうが、そんな風な違うやり方をするということは、非常に忌んだ。「そんなげすなことをするな。」と言われたものである。そういう事はあらゆることにあった。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
それからあらゆる智慧と経験に照らして土間にころがつてゐた地金の屑をかき集め、き、打ち、又焼き又叩き、虹蓋の秘伝を自ら編み出さうと夜の目も寝ずに苦心に苦心を重ねたが、どう工夫し
名工出世譚 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
あらゆるいまわしい想像が、工場の煙突から吐き出される煤煙ばいえんのように、むらむらととぐろを巻いて、彼の意識全体にひろがってゆくのであった。
犠牲者 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
弟はこれに対してます/\執拗しつようになり、果てはあらゆる侮誣ぶふの言葉を突きつけて兄に向つた。
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
從つて、それは、人間界のあらゆる現象に對して、統一的な解釋、「見方」をもつべきものであることは無論である。
あらゆる點に於て親切を極め、好意に滿ちたものである以上、そして最後にあまりに甚だしい誤解である以上
中西氏に答う (旧字新仮名) / 平林初之輔(著)