青黛せいたい)” の例文
青黛せいたいの青い眼の涼しい六尺豊かの大漢子おおおとこ、三十をすこし越したばかりの、如来衛門は泣きながら、鳰鳥に礼を云うのであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
人あり、老いたる妻に聞きて白髪を残し黒きを抜き、また若き妻に聞きて白髪を抜き白粉おしろいを面に塗り青黛せいたいまゆに描く
「四十前後の良い男でございました。何より色白の顔と、青黛せいたいを塗ったような、両頬の青髯の跡が目立ちました」
手招きする彼女を追って行く庸三の目に、焦げ色にかれた青黛せいたいの肌の所々に、まだ白雪の残っている鳥海山の姿が、くっきりと間近に映るのであった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
司馬相如しばさうじよつま卓文君たくぶんくんは、まゆゑがきてみどりなることあたか遠山とほやまかすめるごとし、づけて遠山ゑんざんまゆふ。武帝ぶてい宮人きうじんまゆ調とゝのふるに青黛せいたいつてす、いづれもよそほふに不可ふかとせず。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さて眺望みわたせば越後はさら也、浅間あさまけふりをはじめ、信濃の連山みな眼下がんか波濤はたうす。千隈ちくま川は白き糸をひき、佐渡は青き盆石ぼんせきをおく。能登の洲崎すさき蛾眉がびをなし、越前の遠山は青黛せいたいをのこせり。
もとより急ぐ旅でもなし、むりなことをして一同をつからすのは本意でないから、この日もまた一ぱくした。その翌日の午後になると、はるかに笑うがごとき、みずうみ青黛せいたいをみることができた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
ついで遠い桔梗色の空にふわりと青黛せいたいを浮べているのは、加賀の白山である。
白馬岳 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
老若まじえて十二人の武士がずらりと室に並んでいた。頬髯ほおひげを生やした厳しい顔、青黛せいたい美しい優男やさおとこ眉間みけんに太刀傷をまざまざと見せた戦場生残りらしい老士おいざむらい
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
やがて暗くなつて行く樂屋を見捨てて小屋の外へ出ると、そこに待つてゐたのは道化の權八の、これも白粉を落し、鼻の下の青黛せいたいを洗つた、淺黒い生眞目きまじめな顏です。
さて眺望みわたせば越後はさら也、浅間あさまけふりをはじめ、信濃の連山みな眼下がんか波濤はたうす。千隈ちくま川は白き糸をひき、佐渡は青き盆石ぼんせきをおく。能登の洲崎すさき蛾眉がびをなし、越前の遠山は青黛せいたいをのこせり。
と、それを合図にしたかのように、反対の側の白襖がパッタリ前へたおれると共に、前髪を昨日削ったらしい青黛せいたいあざやかな若侍が、電光いなずまのように走り込んだ。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
眉の墨と顏のきずと、顎の青黛せいたいを洗つたのだ——俺はあの時からこれは臭いなと思つたよ。あんな騷ぎの最中に、顏を洗つて來た言ひわけなどはしなくても宜いぢやないか
顏はまさに繪に描いた彦徳ひよつとこそのまゝ——素顏はそんな變な男ぢやありませんが——と八五郎の辯解がなかつたら、鼻の下に青黛せいたいを塗つて、豆絞りの手拭を冠つたこの男の顏を
もう一度振り返ると、思ひなしか喜八の顎には、青黛せいたいを塗つたやうな不自然な青さがあり、左の頬にも、繪の具を洗ひ落した跡とも見える、淡い跡が殘つて居るやうでもあります。
「おや、この頭巾のあごのところに、青いものが附いて居るぜ——青黛せいたいではないかな」