雛壇ひなだん)” の例文
雛壇ひなだんのように作られた、ソオヌ谷の、目もはるかな見事な葡萄畑の下を、通常、「無宿衆ノマアド」と呼ばれる渡り見世物フォラン師の古びた小屋馬車ルウロット
こんな詩を口誦くちずさんで聞かせます。角の柳光亭の楼上ろうじょう、楼下は雛壇ひなだんのような綺羅きらびやかさを軒提灯の下に映し出しています。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
一杯いっぱい雛壇ひなだんのやうな台を置いて、いとど薄暗いのに、三方さんぽう黒布くろぬの張廻はりまわした、壇の附元つけもとに、流星ながれぼし髑髏しゃれこうべひからびたひとりむしに似たものを、点々並べたのはまとである。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
何を訊いてもらちがあかず、唯今朝は自分で雛壇ひなだんを疊んで雛の道具を土藏へ運ぶ筈だつたが、氣分が惡かつたので止してしまつて、下女のお文に頼んだところ
別に買った雛も無いから、細君が鶴子を相手に紙雛を折ったり、色紙いろがみの鶴、香箱こうばこ三方さんぼう四方しほうを折ったり、あらん限りの可愛いものを集めて、雛壇ひなだんかざった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
渓のむこうもじぶんの立っている周囲まわりも、赤い毛氈もうせんを敷いた雛壇ひなだんのような壇が一面に見えて、その壇の上には内裏雛だいりびなを初め、囃子はやし押絵おしえの雛がぎっしり並んでいた。
怪人の眼 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
伊豆半島のある村では、女の児が雛壇ひなだんの前に集まって、ままごとをするのを磯遊びと呼んでいる。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
美事なグラジオラスの一はちを、通りの花屋から買って来て、庸三を顰蹙ひんしゅくせしめたものだが、お節句にはデパアトから幾箇いくつかの人形を買って来て、子供の雛壇ひなだんにぎわせたり
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
見ると、次郎は雛壇ひなだんの前あたりで、大騒ぎを始めた。暮れの築地つきじ小劇場で「子供の日」のあったおりに、たしか「そら豆の煮えるまで」に出て来る役者から見て来たらしい身ぶり、手まねが始まった。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
汽船の舷側に、風変りな雛壇ひなだんが作られたような具合である。長さ一間、幅は下に行くほど広くなる板が、ロープで、六段に吊られ、一段に二人ずつ、美しい雛のかわりに、ごつい沖仲仕が立っている。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
店一杯に雛壇ひなだんのような台を置いて、いとど薄暗いのに、三方を黒布で張廻した、壇の附元つけもとに、流星ながれぼし髑髏しやれこうべひからびたひとりむしに似たものを、点々並べたのはまとである。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
足にさわった雛壇ひなだんは足をあげて力まかせに踏みにじった。足の力が余ってひっくりかえることがあった。
怪人の眼 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
雛壇ひなだんから借りて來たやうに竝んで居りますが、突當りの百味だんすの前、帳場格子の中には、十八九の娘が一人、筆の穗先ほさきを噛んだまゝ、何やら思案をして居るではありませんか。
銭形平次捕物控:167 毒酒 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
もっとも東の雛壇ひなだんをずらりと通して、柳桜が、色と姿を競った中にも、ちょっとはあるまいと思う、容色きりょうは容色と見たけれども、歯痒はがゆいほど意気地いくじのない、何ての抜けた
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つるも、雛壇ひなだんも、それ程でもなかったが、背の低い男の眼は、今に忘れません」
怪人の眼 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
黒棚くろだな御廚子みずし三棚みつだなうずたかきは、われら町家ちょうか雛壇ひなだんには打上うちあがり過ぎるであろう。箪笥たんす長持ながもち挟箱はさみばこ金高蒔絵きんたかまきえ銀金具ぎんかなぐ。小指ぐらいな抽斗ひきだしを開けると、中があかいのも美しい。
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大俎おおまないたがある、白刃しらはが光る、いかだのようにやりを組んで、まるで地獄の雛壇ひなだんです。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
青貝をちりばめて隙間なく並べた雛壇ひなだんに較べてい。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)