閃々せんせん)” の例文
裾野にそよぐすすきが、みな閃々せんせんたる白刃はくじんとなり武者むしゃとなって、声をあげたのかとうたがわれるほど、ふいにおこってきた四面の伏敵ふくてき
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一令は一令よりしげく下れり、天下の民は、雷鳴を聞くのみならず、閃々せんせんたる電光を見たり。閃電を見るのみならず、落雷に撃たれたり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
白鳥は首をあげた。閃々せんせんと光る水はあおい火のように胸とを洗った。朝の微光が赤い雲を照らした。白鳥は力づいて立上った。
聖アンデルセン (新字新仮名) / 小山清(著)
必死と争へる両箇ふたりが手中のやいばは、あるひは高く、或は低く、右に左に閃々せんせんとして、あたかも一鉤いつこうの新月白く風の柳をふに似たり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
その左にほうふつとして立つ紫の幻塔が見える、それが金のうろこのお城だというのである。そう聞けば何か閃々せんせんたる気魄きはくが光っているようでもある。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
他のすべての史家はある眩惑げんわくを感じ、その眩惑のうちに摸索している。実際それは、閃々せんせんたる一日、軍国の崩壊である。
彼は純粋に一兵卒の目をもって、閃々せんせんとして去来する「戦争の赤い翼」のはためきを、素直に記しとどめるのである。
盗あり、戸を破りて入りきたり、秋水閃々せんせん、大いに目をいからし、予に向かいて曰く、「金を渡せ、金を渡せ」と。
妖怪報告 (新字新仮名) / 井上円了(著)
そういう蚊帳の外に稲妻が閃々せんせんす。蚊帳の中の人は暢気のんきにそれを見ている、といったような情景が想像される。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
クリストフの一言に奥底までゆすられた。そして夢中になって心の中を披瀝ひれきした。彼の理想主義はその隠れたる魂の上に、閃々せんせんたる詩の光輝を投げかけた。
それもそうであろう、日本北アルプス北半の山という山の膚から放射される特有の色の波が、電光の如く閃々せんせんと虚空に入り乱れて、無数の縦谷にちりばめられた大雪渓は
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
同時に、バタン! バタン! と表裏の両門を打つ一方、庭の捜査は鉄斎自身が采配をふるって、木の根、草の根を分ける抜刀に、焚火の反映が閃々せんせんとして明滅する。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
溪間たにまの温泉宿なので日がかげり易い。溪の風景は朝遅くまでは日影のなかに澄んでいる。やっと十時頃溪向こうの山にきとめられていた日光が閃々せんせんと私の窓をはじめる。
冬の蠅 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
二万五千六百の雪峰 であって巍然ぎぜんとして波動状の山々の上に聳えて居る様はいかにも素晴らしい。その辺へ着きますと閃々せんせんと電光が輝き渡り迅雷じんらい轟々ごうごうと耳をつんざくばかり。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
閃々せんせんとして波間をくぐる魚鱗のように、町々辻々の要所要所をくぐり抜けて血を吸って帰るこの人の癖は、米友に於てもよく心得たものだが——いかに潜入が得意の人とはいえ
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と、また室内は闇となり、闇の中より鎗太刀の光が閃々せんせんとしてひらめいて見えた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
忽ち、眼に見えたのは閃々せんせんたる長柄の刃、素太刀、槍の白い穂さき、それから弓、鉄砲なども入り交じった百人ほどの軍隊だった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれども雲の軍勢が鬱然うつぜんと勃起し、時に迅雷じんらい轟々ごうごうとして山岳を震動し、電光閃々せんせんとして凄まじい光を放ち、霰丸さんがん簇々そうそうとして矢を射るごとく降って参りますと修験者は必死となり
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
ベックリンの閃々せんせんたる粗野な夢、ホドラーの荒くれた勇武、ゴットフリート・ケルレルの清朗な温厚さと生々なまなましい率直さ、偉大なる楽詩人シュピッテラーの巨人族的叙事詩やオリンポス的光輝
下手奥は、夜眼にも白き大河、彼岸は模糊もことして砂漠につづき、果ては遠く連山につながる。その砂漠に、軍兵の天幕の灯、かがり火など、閃々せんせんとしてはるかに散らばる。降るような星空の下。
武蔵太郎は閃々せんせんとして、秋の水を潜る魚鱗ぎょりんのようにひらめく。
坂上から——坂下から——閃々せんせんと勝助の身ひとつにつめよる無数の槍は、その馬印と、勝家なりと信ずる彼の首とを、け物のように
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いまや、その裾野すそのの一角にあって、咲耶子さくやこがふったただ一本のふえの先から、震天動地しんてんどうちの雲はゆるぎだした。閃々せんせんたる稲妻いなずまはきらめきだした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
細く白いやいばのかげも、人に添って、あっちこっちに閃々せんせんと動き、早くもさきを低く泳がせて、狙い寄ってくる覆面もある。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こいつ、からだはちいさいが、一すじなわではいかないぞ——とみた甲虫かぶとむしは、やにわに短槍たんそうをおっ取って、閃々せんせんと突いて突いて、突きまくってくる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なぜなら閨室けいしつ廊欄ろうらんには燈火をつらね、そこに立ちならぶ侍女こしもとから局々の女たちまで、みなやり薙刀なぎなたをたずさえて、閃々せんせん眼もくらむばかりだったからである。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
丁々ちょうちょう閃々せんせん、ひたいに汗をかいて、幾十合と接戦のおめきはあげつづけているものの、ともすれば、ああ美しい女だ! とつい思い、がねの火花にも、何か
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
広場をえらんで、双方の馬と馬、まんじにもつれた。花栄の閃々せんせんたる白槍びゃくそう、秦明の風を呼ぶがごとき仙人掌棒さぼてんぼう、およそ四、五十合の大接戦だったが勝負はつかない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
閃々せんせん、槍を揃えた甲冑の一群は、波状をして、彼の前に迫り、しばしば、声ばかり発していたが
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてその中を閃々せんせん盲薙めくらなぎに相手を叩き廻っていた陶山と小見山の剣光も、やがてのこと
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
間もなく宵の城門を、五百余りの精兵が、元日の夜というのに、剣槍けんそう閃々せんせんと駈けだしてゆく。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見れば、薙刀なぎなたやり長柄ながえなどの光が、閃々せんせんと、坪向うのひさしの下を表のほうへ駈け急いでいた。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いかつい声と一緒に、眼のまえの柵門さくもんが大きく口を開けた。暗闇の中にひしめく兵の影は、一団百人以上もいるかと見えた。その波の揺れるたびに、閃々せんせんと槍の穂が瞳を刺す。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここでは重左と新九郎が龍攘虎搏りゅうじょうこはくのまッ最中、男でさえも近寄りがたい閃々せんせんたる剣火の旋風つむじへ、意外や、時ならぬ落花とばかり降り込んで、駕のうちから美しい姿を抜け出させ
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と呂布はまだ嘲笑あざわらう余裕さえあった。関羽、張飛、玄徳の三名を物ともせず、右に当り左にぎ、閃々せんせんの光、鏘々しょうしょうの響き、十州の戦野の耳目は、今やここに集められたの観があった。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大斧だいふ閃々せんせん槍尖そうせんの電光、おめき合うことも幾十合か。馬も汗するばかりなのに、どうしても、勝敗はつかない。満場は声なく、巨大な落日の紅炎は、西の空へ、刻々に沈んでゆく。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
げき、剣、馬蹄から立つ土けむりの中に、戛々かつかつと火を発し、閃々せんせんとひらめき合う。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「これこそ馬超だろう」と思いこんで、閃々せんせん、刀を舞わして、おめきかかった。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
剣の光は閃々せんせんと乱れて見えたが、その時、ここ、もちの木坂の一地点——ほとんど、人と人と人と人とのかたまりが、一個の野晒のざらしをあばき合う狼群ろうぐんのごとく眺められて、さしも、法月弦之丞
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼が、松平家の鋲門の前を、とつおいつして迷っている頃、早くも、芝田村町の角を曲った京極家の家臣七騎は、閃々せんせんたる手槍、抜刀ぬきみの片手綱で、愛宕を指してまっしぐらに飛ばして来ている。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とふり込んでくる脇差の乱れ打ち、閃々せんせん、たばしる氷雨か、石火の稲妻。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
閃々せんせんと横に光を刻んでくるのは白刃である。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
左右の草むらにも閃々せんせんたる伏刃ふくじん
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
閃々せんせん偃月えんげつの青龍刀。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)