鍛冶かじ)” の例文
「なにが、無態だ。なんじらの馬鹿げた迷妄を、の勇をもって、ましてくるるのがなんで無態か。鍛冶かじを呼んで、くさりを切らせろ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
丁度ちようどイタリーの南方なんぱうリパリ群島中ぐんとうちゆう一火山島いちかざんとうたるヴルカーノとうをローマの鍛冶かじかみたるヴルカーノの工場こうじようかんがへたのと同樣どうようである。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
絵の道であれ、刀鍛冶かじであれ、牙彫師げぼりしから、腰元彫りの名人——まあ、江戸一といわれる人間で、わしのもとに出入りせぬ者はない。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
さいしよにやつたのは、鍛冶かじ屋の弟子でした。鳥右ヱ門は真黒になつて、親方と向かひあつて立ち、てんとんと、かなしきの上をたたきました。
鳥右ヱ門諸国をめぐる (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
『新編会津風土記』によれば、若松城より三十町ほど西に鍛冶かじ屋敷という地がある。葦名あしな氏の時鎌倉より鍛冶を伴ない来たって住せしむと言う。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
鍛冶かじ町に借家があるというのを見に行く。砂地であるのに、道普請に石灰くずを使うので、薄墨色の水が町を流れている。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
普通ののみではやれないので、正次さんという正宗系統の非常にうまい刀鍛冶かじに頼んで、いろいろな特別な鑿を拵えて仕事をしたことを覚えている。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
けれども、篇中のどこかには、奇怪な矮人わいじんがあらわれる、鳥がいる。鍛冶かじの音楽、呪い、運命、憎悪、魔法のかぶとがある。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
三間町の鍛冶かじ屋富五郎、鍛冶富に頼まれて、奥州の御浪人和田宗右衛門わだそうえもんとおっしゃる方を世話してこの三丁目の持店もちだなのひとつに寺子屋を開かせた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
伝六あにいのおしゃべりと、あば敬だんなのあの根性は、刀鍛冶かじにでもかけてたたき直さなきゃ直らねえとみえるよ。
太閤殿下御成おなりのために御殿を造ることになりまして、鍛冶かじや番匠を召し集め、秋の月見に間に合うように夜を日に継いで工事を急いでおりましたが
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
この勢いに気を呑まれて、私は元より当の鍛冶かじまで、しばらくはただ、竹馬をほこにしたまま、狂おしい沙門の振舞を、呆れてじっと見守って居りました。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
地曳じびき土取り故障なく、さて竜伏いしずえはその月の生気の方より右旋みぎめぐりに次第え行き五星を祭り、釿初ちょうなはじめの大礼には鍛冶かじの道をばはじめられしあま一箇ひとつみこと
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
案の定一見鍛冶かじ屋のごとく、時計師の仕事場のごとく、無数のかざり職の道具、ふいご、小型の電気炉等々、夫人の居間鏡台の陰に作られた、ドラーゲ公爵家同様
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
で、母がその後、中村という鍛冶かじ職工と同棲どうせいするようになったことを私は、非難すべきではなかろう。
鍛冶かじを業とする者は家毎に甲冑かっちゅう、刀槍をきたえ、武器商う店には古き武器をかさねてその価平時に倍せり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
これに和してモスコフスキーは、同時に立派な鍛冶かじでブリキ職でそして靴屋であった昔の名歌手マイステルジンガーを引合いに出して、畢竟ひっきょうは科学も自由芸術の一つであると云っている。
アインシュタインの教育観 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
して見ると私は曲馬場の前に出て、鍛冶かじ橋を渡って、電車通りから弥左衛門町に這入ってここへ来たものらしい。とにかくあの曲馬場の楽屋で嬢次少年が書いた文句
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
真向まむかいの鍛冶かじ場で蹄鉄ていてつを鍛える音、鉄砧かなしきの上に落ちる金槌かなづちのとんちんかんな踊り、ふいごのふうふういう息使い、ひづめの焼かれるにおい、水辺にうずくまってる洗濯せんたく女のきね
鍛冶かじ屋の兄弟だったんですよ。親も妻子も無しで二人かせぎに稼いで居たんですよ。だが弟の腕がどうも鈍い。兄の方が或る時癇癪かんしゃくを起して金槌かなづちを弟に振り上げたんですね。
春:――二つの連作―― (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その一例は羽前うぜんの庄内の町にて、毎夜深更になると狸の腹鼓はらつづみの音がするとて、騒ぎ立てしことがあるに、よくよくただしてみれば、鍛冶かじ屋のふいごの音であったということじゃ。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
東詰ひがしづめに高札を立ててあった常磐ときわ橋、河岸から大名屋敷へつづいて、火の見やぐらの高く建っていた呉服橋、そこから鍛冶かじ橋、江戸橋と見わたして、はては細川侯邸の通りから
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
辻斬つじぎりと、子供が大八車にひき殺された話です」と木原は云った、「辻斬りは浅草の二天門外、子供のひき殺されたのは神田の鍛冶かじ町、子供は三つの女の子だったそうです」
へちまの木 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「県の何某がのここにあるはまことか」と云うと、鍛冶かじの老人が出て、「この家三とせばかり前までは、村主すぐりの何某という人のにぎわしくて住侍すみはべるが、筑紫つくし商物あきもの積みてくだりし、 ...
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そのなかに久七という鍛冶かじの心得のあるものや吉蔵という指物師がいて、足らぬがちの島の暮しを見て気の毒がり、ありあう道具で、手廻りの道具をいろいろこしらえてくれた。
藤九郎の島 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
この半ば家庭のような学校から、高瀬は自分の家の方へ帰って行くと、頼んで置いたくわが届いていた。塾で体操の教師をしている小山が届けてくれた。小山の家は町の鍛冶かじ屋だ。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
蟹田がんだなる鍛冶かじ夜業よなべの火花闇に散る前を行過ぎんとして立ちどまり、日暮のころ紀州この前を通らざりしかと問えば、気つかざりしとつち持てる若者の一人答えていぶかしげなる顔す。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
東京には箪笥たんす町とか鍛冶かじ町とか白銀しろがね町とか人形にんぎょう町とか紺屋こんや町とかゆみ町とかにしき町とか、手仕事にちなんだ町が色々ありますが、もう仕事の面影おもかげを残している所はほとんどなくなりました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
鍛冶かじかみはかんと打ち、相槌はとんと打つ。されども打たるるは同じつるぎである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「仕様のねえ野郎だ。そんなに御用大事に思うなら、俺の代理に鍛冶かじ町の紅屋べにやへ行ってくれ。——俺は怪我や変死にいちいち立会うのが嫌だから、鎌倉河岸の佐吉親分に任せてあるんだ——」
この剪定鋏せんていばさみはひどくねじれておりますから鍛冶かじに一ぺんおかけなさらないと直りません。こちらのほうはみんな出来ます。はじめにお値段ねだんめておいてよろしかったらおぎいたしましょう。
チュウリップの幻術 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
屡々足の上部外側に胼胝たこ、即ち皮膚が厚くなった人を見受けるが、その原因は坐る時の足の姿勢を見るに至って初めて理解出来る。鍛冶かじ屋は地面に坐って仕事をする(手伝いは立っているが)。
高坂こうさか邸、馬場邸、真田さなだ邸の前を通り、鍛冶かじ小路の方へ歩いて行く。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
机をえたのは、玄関横の往来に面した陰気な四畳半であった。向うには、この新開の町へ来てこのごろ開いた小さい酒屋、塩煎餅屋しおせんべいやなどがあった。筋向いには古くからやっている機械鍛冶かじもあった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「薩州鍛冶かじ焼刃やきばをお目にかけようか」
城下の鉄砲鍛冶かじ火土捏ほどこねをしていたのだ。左官職にひとしい泥だらけな手をして、筒金つつがねを焼く火土をいたり吹鞴ふいごの手伝いなどしていた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
屋久島などでもことに鍛冶かじの家が尊敬せられ、不思議な懐胎には必ず銕滓かなくそもらってきて、柳の葉とともに合せせんじて飲むことになっていたそうである。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
鍛冶かじの効をつんで厳然とした規格の地盤に根を張った逸品の前に持ち出すと、やっぱり免れ難い弱さがあり、浅さがあり、何となく見劣りのするものである。
書について (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
ねずみおどしにぴかぴか二つ光らしているんじゃねえんだから、今度ついでがあったら、神田の鍛冶かじ町へでもいって、もっとドスのきく目玉に打ち直してもらってきなよ
するとその時、私の側にいた、逞しい鍛冶かじか何かが、素早く童部わらべの手から竹馬をひったくって
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
鍛冶かじ屋の鉄鎚ハンマー天降あまくだらせるか何かしたら、私は差し詰め悪魔以上の人間になれる訳だけど、しかし、一方から見ると、それは立派な親孝行にもなるのだから何にもならない。
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
大工町、檜物ひもの町、金屋かなや町、鍛冶かじ町、鋳物師いもじ町、銅町、呉服ごふく町、紙屋町、箪笥町、紺屋こうや町等々工藝の町々が歴史を負って至る所に残る。それらは多く吾々を待っている場所と考えていい。
地方の民芸 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
鍛冶かじ屋があるくらいのもので、私は靴屋に案内してもらい、氷河にすべらない用心に、裏皮をりつけて、くぎを打ってもらったが、旧式の轆轤ろくろを使って、靴屋のおやじが、シュッ、シュッと
火と氷のシャスタ山 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
他の梯は窖住あなぐらずまいの鍛冶かじが家に通じたる貸家などに向かいて、凹字おうじの形に引っこみて立てられたる、この三百年前の遺跡を望むごとに、心の恍惚こうこつとなりてしばし佇みしこと幾度いくたびなるを知らず。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しかし鍛冶かじの熱が魂を満たさなくなるときには、無防禦な魂は、なくて済ませないそれらの情熱に委ねられる。魂は情熱を欲し情熱をつくりだす。情熱のために全身を呑噬どんぜいされなければやまない。
高瀬の住む町からもさ程離れていないところで、細い坂道を一つ上れば体操教師の家の鍛冶かじ屋の店頭みせさきへ出られる。高い白壁の蔵が並んだ石垣の下に接して、竹薮たけやぶや水の流に取囲とりまかれた位置にある。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
鍛冶かじ鉄砧かなしきの音高く響きて夕闇ゆうやみひらめく火花の見事なる
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そのほか、鍛冶かじ石工いしく、左官、錺師かざりし経師きょうじなどにいたるまで、天下の工人の代表的な親方はみな腕のきそいどころと一門をすぐって来ていた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ご存じのように末席ながら上さま御用鍛冶かじを勤めまするもの、事の起こりは富士見ご宝蔵お二ノ倉のお宝物、八束穂やつかほと申しまするおやりにどうしたことやら曇りが吹きまして
単なる人名も土地にとっては歴史だろうが、外からうかがうことはやや困難である。眼に留るのは大小の地役人、社寺の従属者の他に、鍛冶かじ垣内・紺屋こうや垣内という類の諸職の名が多い。
垣内の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)