過日いつか)” の例文
不可いけません、もう飲んでるんだもの。この上あおらして御覧なさい。また過日いつかのように、ちょいと盤台を預っとくんねえ、か何かで、」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
う云われると、此方こっち記憶おぼえが無いでもない。なるほど過日いつかそんなことも有ったようである。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
母親の姿が路次の曲り角を廻って見えなくなると、私は小走りに急いで後を追うてゆくと、母親は、やっぱり過日いつかの三軒並んだ中央まんなかの家の潜戸くぐりを開けて入ってゆくところであった。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
あなたがしその若旦那のお髪をお結いなさるのならば、過日いつか羽根を突いて小僧さんの腮を払った娘がございますが、お詫をしたくも間が悪いのと恟りしたので、御挨拶も致しませんで
横ッちょに曲ってかかってるんですが、わっし過日いつか中から気になってならないんで、直すか直すかと思ってるとやっぱり横ッちょだ。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すでに過日いつかも、現に今日の午後ひるすぎにも、礼之進が推参に及んだ、というきっさきなり、何となく、この縁、纏まりそうで、一方ならず気に懸る。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
綾子夫人は、待てしばし、過日いつか狸穴まみあなほとりにて在原夫人にかかりし事あり。その時かれは病者を見棄てて大きに面目を失いぬ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「そのかわり、今夜のうちにどんな恐しい事がありましょうとも眼をふさいで我慢なさい、過日いつかお茶の水で身を投げて死のうとなすった、その気でね。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
恍惚うっとりした小児こどもの顔を見ると、過日いつかの四季の花染はなぞめあわせを、ひたりと目の前へ投げて寄越よこして、大口おおぐちいて笑った。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
過日いつか切通きりどおし枳殻寺からたちでらで施米があると云うから、この足で、さめヶ橋から湯島くんだりまで、お前様まえさん、小半日かかって行ったと思わっしゃれ、そうすると切符を渡して、なお前様、明日あした来い
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「似合ったでしょう、過日いつか谷屋が持って来て、貴下が見立てて下すったのを、直ぐ仕立てさしたのよ。島山のはまだ縫えないし、あるのは古いから、我慢して寝衣ねまきに着て頂戴。」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
婆さんは過日いつかおのが茶店にこの紳士の休んだ折、不意にお米が来合せたことばかりを知っているが——知らずやその時、同一おなじ赤羽の停車場ステエションに、沢井の一行が卓子テエブルを輪に囲んだのを、遠く離れ
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「むむ、過日いつか来る時奇代な人間が居ると思ったが、それか。」
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)