行乞ぎょうこつ)” の例文
たまには行乞ぎょうこつにも行かなければならない。折角せっかく思い立った座禅思惟を取られて思うように運ばなくなった。慧鶴はそれでも辛抱した。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
なかの一人が上がりはなへ出て見ますと、予期に反して、御岳みたけごもりの行乞ぎょうこつか、石尊詣せきそんまいりの旅人らしい風体ふうていのものが格子の外に立っている。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれど、今日からする百姓は、朝夕のかてのためではない、心の糧を求めるのだった。また、行乞ぎょうこつの生活から、働いて喰らう生活を学ぶためだった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
寺は持たずに教団の男女を率いて諸国を行乞ぎょうこつ教化してめぐる宗風であった。この教団の人々を遊行衆と言った。時代の暴風雨に吹き悩まされた土民の男女でこの教団に遁れ入るものが多かった。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
きょう一日の行乞ぎょうこつが、朱実のよろこびになると思えば、これは張合いのあることじゃ。——それ以上の慾望はつつしもう
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(阿難、鉢を持って行乞ぎょうこつの戻りの姿、池を見て娘の傍に近づく。)
阿難と呪術師の娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そして一日の行乞ぎょうこつに胃は飢えぬいているのであったが、晩の食べ物を作りにかかる気力も失せたように、尺八を持って
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武者修行は、由来、行乞ぎょうこつを本則としている。人の布施ふせに依って学び、人の軒端をかりて雨露をしのぐことを、禅家その他の沙門しゃもんのように、当りまえなこととしている。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
地蔵経じぞうきょうしてかどへたち、行乞ぎょうこつぜにべ物は、知りえた不幸ふこうの子にわけてやる。ほんとにおやも家もない子供は、自分の宿やどへつれて帰って、奉公口ほうこうぐちまでたずねてやる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
スタスタと板縁から土間へ出て、塗下駄ぬりげたを突っかけ、行乞ぎょうこつの深笠をとってかしらにつけた。そして、みずから戸を開け、みずから後を閉めて、万吉が何と口をさし挟むいとまもなく
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
笠は、天蓋てんがいではない、当りまえの竹の子笠である、尻切れ草履をびたびたって、雨さえ降らなければ、町へ行乞ぎょうこつに出かけるのだった。案山子かがしが歩いているように、鼻下のひげまでがみすぼらしい。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いまでこそ身は童幼どうようの友としたしまれ、には地蔵じぞうの愛をせおい、のきごとの行乞ぎょうこつたびから旅をさすらい歩くながれびとにちがいないが、竹生島ちくぶしまに世をすてて可愛御堂かわいみどう堂守どうもりとなる前までは、これでも
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どこの国からきた、どこのおてら行人ぎょうにんであろうか、天蓋てんがい瓔珞ようらくのたれたお厨子ずしなかにせおい、むねにはだいをつってかね撞木しゅもくをのせてある。そして行乞ぎょうこつでえたぜには、みなそのかねのなかにしずんでいた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)