蓮歩れんぽ)” の例文
「さあどうぞ! どうぞ」とこの黒チャンに手をられんばかりにして私は楚々そそ蓮歩れんぽを踏み出したわけなのであったが
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
嫋々なよなよとして女の如く、少し抜いた雪のえり足、濡羽ぬればいろの黒髪つやつやしく、物ごしやさしくしずしずと練ってゆく蓮歩れんぽ
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
喨々りょうりょうたる奏楽がわきあがった。奥の閣からは二夫人が楚々たる蓮歩れんぽを運んで出迎える。服装こそ雑多なれ、ここの山兵もきょうはみな綺羅きらびやかだった。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蓮歩れんぽを移す裾捌すそさばきにはら/\とこぼるゝ風情、蓋し散る花のながめに過ぎたり。紅裙こうくんじやくたましひつつむいくばくぞや。
当世女装一斑 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
綾羅りようらの袂ゆたかにひるがへるは花に休める女蝶めてふの翼か、蓮歩れんぽふしきふなるは蜻蛉かげろふの水に點ずるに似たり。折らば落ちん萩の露、ひろはば消えん玉篠たまざゝの、あはれにも亦あでやかなる其の姿。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
年に一度の天長節は歌舞伎座に蓮歩れんぽを移し給ふこと何年ともなき不文憲法と拝聴致せしに、如何いかなる協商の一夜の中に成立したればか、耶蘇ヤソの会合などへは臨席し給ひけん
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
『あのともはうへでもいらつしやいませんか。』とわたくしうながしつゝ蓮歩れんぽ彼方かなたうつした。
うたたねの夢路に人の逢ひにこし蓮歩れんぽのあとを思ふ雨かな
舞姫 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
時しも一面の薄霞うすがすみに、処々つやあるよう、月の影に、雨戸はしんつらなって、朝顔の葉を吹く風に、さっと乱れて、鼻紙がちらちらと、蓮歩れんぽのあとのここかしこ、夫人をしとうて散々ちりぢりなり。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)