苦辛くしん)” の例文
先輩に聞けば一口にして知り得べき者を数月数年の苦辛くしんを経て漸く発明するが如きは、ややに似たれどもなかなかに迂ならず。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
前年と違いよほど苦辛くしんを重ねたれば少しは技術も進歩せりと思う、江藤新平えとうしんぺいを演ずるはずなれば、是非御家族をともない御来観ありたしという。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
崇拝して句々皆神聖視していたから一字一句どころか言語の排列までも原文にたがえまいと一語三礼の苦辛くしん
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
彼等かれらがさういふ苦辛くしんあひだつぎ身體からだつかれを犧牲ぎせいにしてまでもわづか時間じかんあひたいしてながらたがひかほることが出來できないでひくころしたこゑにのみ滿足まんぞくするほか
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
やはり立志篇的の苦辛くしんの日を重ねつゝ、大学にも入ることを得るに至つたので、それで同窓中では最年長者——どころでは無い、五ツも六ツも年上であつたのである。
観画談 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
尋ねうらみむくい申度とて三ヶ年の間苦辛くしんいとはず所々しよ/\尋ねめぐり候處漸々此程隅田川すみだがは渡船わたしぶねにておもて
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「それはあるにはあるが、そうすると、こうしてなかよくしているみんなにわかれなければならぬ。かんがえると、そのことがつらいのじゃ。」と、おじいさんは、ながあいだ苦辛くしんをしてきた、にやけて
なつかしまれた人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
くその士気をふるうて極端きょくたん苦辛くしんえしむるの術あるべきや。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
時下秋冷のこうそろ処貴家益々御隆盛の段奉賀上候がしあげたてまつりそろのぶれば本校儀も御承知の通り一昨々年以来二三野心家の為めに妨げられ一時其極に達し候得共そうらえども是れ皆不肖針作ふしょうしんさくが足らざる所に起因すと存じ深くみずかいましむる所あり臥薪甞胆がしんしょうたん其の苦辛くしんの結果ようやここに独力以て我が理想に適するだけの校舎新築費を
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
の句は余が苦辛くしんの末に成りたる者、碧梧桐はこれを百合十句中の第一となす。この句いまだ虚子の説を聞かず。賛否を知らず。(八月五日)
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
学問も段〻進んで来るし人にも段〻認められて来たので、いくらか手蔓てづるも出来て、ついに上京して、やはり立志篇りっしへん的の苦辛くしんの日を重ねつつ、大学にも入ることを得るに至ったので
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
最も苦辛くしんした労作と自からも称していた「いちご姫」は昔しの物語の焼直しみて根ッから面白くなかった。一時は好奇心を牽いた「おじゃる」ことば徐々そろそろ鼻に附いて飽かれ出した。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
発明家の苦辛くしんにも政治家の経営にもまた必ず若干の遊戯的分子を存するはずで
柿は親指と人さし指との間から見えて居る処で、これを画きあげるのは非常の苦辛くしんであった。そこへ虚子きょしが来たからこの画を得意で見せると、虚子はしきりに見て居たが分らぬ様子である。
(新字新仮名) / 正岡子規(著)
『門三味線』は全く油汗をしぼって苦辛くしんした真に彫心鏤骨るこつの名文章であった。
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
それ故、文芸上の興味が冷め、生活上の苦労にさいなまれていても一夜漬いちやづけの書流かきながしで好い加減にけりをつけて肩を抜いてしまうという事は出来ないで、イヤイヤながらもやはり同じ苦辛くしんを重ねていた。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
肝腎かんじんの芸術的興味がとっくの昔に去っていて、気の抜けた酒のような気分になっていたから、苦辛くしんしたのは構造や文章の形式や外殻の修飾であって、根本の内容を組成する材料の採択、性格の描写
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)