芳醇ほうじゅん)” の例文
妙子のように美妙な芳醇ほうじゅんな、如何なる香料も及ばない匂いを、肌から発散する人間があろうとは、全く想像も及ばなかったことです。
軟かい飯粒を、一粒一粒つまみあげて、静かに味わって喜ぶほど、彼女のうちにはこまやかな、芳醇ほうじゅんな情緒がみなぎっていたのである。
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
芳醇ほうじゅんかおりは昼の無念を掻き消し、五臓にみてゆく快感は、再び彼を晴々とさせた。新九郎は怖々こわごわながら、盃の数を重ねて
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
強烈にして芳醇ほうじゅんなる蒸発性物質が名探偵の鼻口を刺戟したらしく、彼は大きなくしゃみと共に生還したのであった。
何か芳醇ほうじゅんな酒のしみと葉巻煙草シガーとのにおいが、この男固有の膚のにおいででもあるように強く葉子の鼻をかすめた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
物いへばくちびる寒きを知る国民たり。ヴェルハアレンを感奮せしめたる生血なまちしたたる羊の美肉びにく芳醇ほうじゅんの葡萄酒とたくましき婦女のも何かはせん。ああ余は浮世絵を愛す。
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
このごろ彼の胸にはっきり映り出した母の澄みとおった愛と、ひさびさでよみがえった乳母の芳醇ほうじゅんな愛とが、彼の夢の中で烈しく熔けあっていたからである。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
そこにおいて長老たちから芳醇ほうじゅんなる葡萄酒が供せられ、各自かごに乗駕してこの都会の貴族邸へ、賓客としてかれてまいることがしるされているのであります。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
その芳醇ほうじゅんな香気をがされ、なみなみと盛った杯を見せられては、矢張私は飲まずにはいられない。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
芳醇ほうじゅんな酒の香、かしましいお祝いの言葉、蜘蛛の巣の様にからみつく五色のテープ、耳を聾する音楽の響、それらのものが、いつまでも頭にこびりついて離れなかった。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
紅屋で振舞った昨夜ゆうべの酒を、八郎が地酒だ、と冷評さましたのを口惜くやしがって、——地酒のしかも「つるぎ」と銘のある芳醇ほうじゅんなのを、途中で買って、それを角樽つのだるで下げていたのであるから。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何処どこから渡って来た銘酒か、何ともいい難い芳醇ほうじゅんさと甘さとを持った液体が、舌の先から咽喉の奥に——それから胸の中に、じっとりと溶け流れると、すぐに目先がチラチラする程
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
新鮮な色彩が眼に、芳醇ほうじゅんな香が鼻に、ほろ苦い味が舌にいずれも魅力みりょくほしいままにする。
異国食餌抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そして畑地の上には、大地の表皮を破って生命の芳醇ほうじゅんな気が通り過ぎていた。
すぐさまそれをかんにしてもらってちびりちびり試むると、その酒の芳醇ほうじゅんなこと、こんなところへ来て、こんないい酒を恵まれようとは全く予想外のことでしたから、道庵の魂が頂天に飛びました。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
諸洞の蛮王の中には、芳醇ほうじゅんな酒にも飽き、熟れたる果実や獣肉にも飽き、余りに事なき生活に体をもて余している連中もある。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
物いへばくちびる寒きを知る国民たり。ヴェルハアレンを感奮せしめたる生血なまちしたたる羊の美肉びにく芳醇ほうじゅん葡萄酒ぶどうしゅたくましき婦女のも何かはせん。ああ余は浮世絵を愛す。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
いや、酔払よっぱらったんです。これもこの酒の芳醇ほうじゅんなるゆえです。そこで先生、酒の実験はこのくらいにして、お約束ですから、かねがねお願いしてありました毒瓦斯研究の指導を
西洋酒の芳醇ほうじゅんな甘い酒の香が、まだ酔いからさめきらない事務長の身のまわりを毒々しいもやとなって取り巻いていた。放縦という事務長のしんの臓は、今不用心に開かれている。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ほとんど盲目的だとも思われるほどの芳醇ほうじゅんな愛や、彼の父俊亮の、聰明そうめいで、しかも素朴そぼくさを失わない奥深い愛が、いつも彼の背後から彼を支えていてくれなかったならば、そして、また
次郎物語:03 第三部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
もっとも、ほかの世間は、余りにもまぎれるものが多すぎた。寛永かんえい元和げんなの戦国期にわかれを告げて六十年余、江戸の文化は、芳醇ほうじゅん新酒しんしゅのように醗酵はっこうして来た。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いつでも葉子の情熱を引っつかんでゆすぶり立てるような倉地特有の膚のにおい、芳醇ほうじゅんな酒や、煙草たばこからにおい出るようなそのにおいを葉子は衣類をかき寄せて、それに顔をうずめながら
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
宋君そうくん。ご存知でしょうが、ここで飲ませるのが、純粋な江州産の銘酒めいしゅですよ。つまりこの芳醇ほうじゅんですな。天下の酒徒なら“玉壺春ぎょっこしゅん”の名を知らぬものはありません。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
此処ここではまた酒のような芳醇ほうじゅんな香が私を襲った。
フランセスの顔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
呉海呉山の珍味は玉碗銀盤に盛られ、南国の芳醇ほうじゅんは紅酒、青酒、瑪瑙酒めのうしゅなど七つの杯に七種なないろつがれた。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのうちに、下男が、菜をみ足してくると、妙秀は、かゆを煮、菜根さいこんいて、これを光悦の手づくりらしい小皿に盛り、かめ芳醇ほうじゅんを開けて、ささやかな野の食事が始まる。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ウーム、実に芳醇ほうじゅん御酒ごしゅだ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)