ほしい)” の例文
旧字:
温厚なる二重瞼ふたえまぶたと先が少々逆戻りをして根に近づいている鼻とあくまでくれないに健全なる顔色とそして自由自在に運動をほしいままにしている舌と
倫敦消息 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして自由自在に運動をほしいままにしている舌と、舌の両脇に流れてくる白き唾とを暫くは無心に見詰めていたが
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
そしてその繁殖はその梅の実が自ら地に落ち、すなわちそこに自然に仔苗が生えてほしいままに生長するのである。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
己達は昔のやうに又島の倶楽部の卓を囲むことになり、それよりはしば/\博奕の卓を囲むことになつた。紙で拵へた仮面は己達の顔を掩つた。己達は興をほしいままにした。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
わたくしは筆をるに当つて事実を伝ふることをもつぱらにし、つとめて叙事の想像にわたることを避けた。客観の上に立脚することを欲して、復主観をほしいまゝにすることを欲せなかつた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
僕は図の如く得意となつて朝夕のドライヴをほしいまゝにしてゐるが、そしてはじめのうちは野良通ひの馬に出遇ふ度に非常に胆を冷したものだつたが、近頃の馬は見向きもしないので吻つとした。
頂上にのぼり尽きたるは真午まひるの頃かとぞ覚えし、憩所やすみどころ涼台すゞみだいを借り得て、老畸人と共にほしいまゝに睡魔を飽かせ、山鶯うぐひすの声に驚かさるゝまでは天狗とを并べて、象外しやうぐわいに遊ぶの夢に余念なかりき。
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
先づ廟前の牌障はいしやうの上に立つて、港内の展望を晴空の下にほしいままにしたのは快心の事であつた。廟には道士を招いて住ませてある。予等は茲に初めて道教の廟と道士と、其れの誦する経巻とを目にした。
世話好な夫人は、この若い二人を喰っつけるような、また引き離すような閑手段かんしゅだんほしいままにろうして、そのたびにまごまごしたり、またはのぼあがったりする二人を眼の前に見て楽しんだ。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
諸書の伝ふる所は渡辺氏の「阿部正弘事蹟」に列記してあるが、要は正弘が政局になやみ、酒色をほしいままにして自らつたと云ふにある。わたくしは此に一例として徳川斉昭のことを引く。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
夏のの月まるきに乗じて、清水きよみずの堂を徘徊はいかいして、あきらかならぬよるの色をゆかしきもののように、遠くまなこ微茫びぼうの底に放って、幾点の紅灯こうとうに夢のごとくやわらかなる空想をほしいままにわしめたるは
京に着ける夕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼女の姿は先刻さっき風呂場で会った婦人ほどほしいままではなかった。けれどもこういう場所で、客同志が互いに黙認しあうだけの自由はすでに利用されていた。彼女は正式に幅の広い帯を結んでいなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)