緩漫かんまん)” の例文
小さい人はその底の一部分を、黒くなって、寒そうに往来おうらいする。自分はその黒く動くもののうちで、もっとも緩漫かんまんなる一分子である。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
其振動そのしんどうぶりは、最初さいしよ縱波たてなみくらべてやゝ緩漫かんまん大搖おほゆれであるがため、われ/\はこれをゆさ/\といふ言葉ことば形容けいようしてゐる。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
それはあたかも雲の堰が押し移るがごとく緩漫かんまんであった。と同時にまた雲の峰がき止め難いごとく刻薄であった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
一度ひとたび西洋より帰り来りて久しくざりし歌舞伎座を看るや、日本の芝居における俳優の科白せりふの西洋の演劇に比して甚だしく緩漫かんまん冗長なるに驚きぬ。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
最大級さいだいきゆう地震ぢしんではかような地變ちへん急激きゆうげきおこるのである。火山地方かざんちほうではその程度ていど地變ちへん緩漫かんまんおこるのであるから、それで火山かざん地震ぢしん安全瓣あんぜんべんとなるわけであらう。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
大川筋は千住せんじゅより両国に至るまで今日においてはまだまだ工業の侵略が緩漫かんまんに過ぎている。
それからあとは全く何の目的もなしになお緩漫かんまんな歩行を約十五分ばかり続けた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかしながら震原距離しんげんきより三十里さんじゆうり以上いじようにもなると、初動しよどうなり緩漫かんまんになつて一秒間いちびようかん一二回いちにかい往復振動おうふくしんどうになり、さら距離きよりとほくなるとつひには地震動ぢしんどう最初さいしよ部分ぶぶんかんじなくなつて
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
非局部性ひきよくぶせい大地震だいぢしんおほ太平洋側たいへいようがは海底かいていり、地震ぢしん規模きぼ廣大こうだいなると陸地りくち震原しんげんからとほいために、はたまた海底地震かいていぢしん性質せいしつとして震動しんどう大搖おほゆれであるが、しかしながら緩漫かんまんである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)