綾羅りょうら)” の例文
この淡紅色たんこうしょくの薄さはあたかも綾羅りょうらすかして見たる色の如く全く言葉もていひ現しあたはざるほどあるかなきかの薄さを示したり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
眇たる丸善の損害は何程でもなかろうが、其肆頭の書籍は世間の虚栄を増長せしむる錦繍綾羅りょうらと違って、皆有用なる知識の糧、霊魂の糧である。
手術台なる伯爵夫人は、純潔なる白衣びゃくえまといて、死骸しがいのごとく横たわれる、顔の色あくまで白く、鼻高く、おとがい細りて手足は綾羅りょうらにだも堪えざるべし。
外科室 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あらゆる華麗な嫁入り妝匣どうぐがそろった。おびただしい金襴きんらん綾羅りょうらわれた。馬車やかさが美々しくできた。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかも綾羅りょうらのように揺曳する浮き紋や透き影の、取れば消えそうでしかも厳として消えない陰影。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
祐信すけのぶ長春ちょうしゅんを呼びいかして美しさ充分に写させ、そして日本一大々尽だいだいじんの嫁にして、あの雑綴つぎつぎの木綿着を綾羅りょうら錦繍きんしゅうえ、油気少きそゝけ髪にごく上々正真伽羅栴檀しょうじんきゃらせんだんの油つけさせ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
汚穢おわいくつ穿いて太陽の下を往くが、ここには一杯の佳き葡萄酒と、高邁こうまいなる感情の昂揚こうようがある、見えずといえども桂冠は我らの額高く輝き、かたちなけれど綾羅りょうらの衣我らを飾る、我らに掣肘せいちゅうなく
溜息の部屋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
また、そのほかの庫内からも金繍きんしゅう綾羅りょうら珠翠しゅすい珍宝ちんぽう、山を崩して運ぶ如く、続々と城外へ積み出された。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と例のかずき取除とりのくれば、この人形は左の手にて小褄こづま掻取かいどり、右の手を上へ差伸べて被を支うるものにして、上げたる手にてひるがえる、綾羅りょうらの袖の八口やつくちと、〆めたるにしきの帯との間に
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
東京にいても居酒屋や屋台店やたいみせへ飛込んではっさんくまさんとならんで醤油樽しょうゆだるに腰を掛けて酒盃さかずき献酬とりやりをしたりして、人間の美くしい天真はお化粧をして綾羅りょうらに包まれてる高等社会には決して現われないで
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
乱れ打つ四竹よつだけの拍子につれて少しく開く綾羅りょうらとばり
と、いいつけ、綾羅りょうら百匹、錦繍きんしゅう五十匹、金銀の器物、珠玉の什宝じゅうほうなど、馬につけて贈らせた。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鈴の音が、堂をすぶった。たくさんな鈴の音の数ほど、天女に扮した巫女が現われ、綾羅りょうらの袂や裳をひるがえしながら、大勢の頭の上へ、五色の紙蓮華を、撒き降らした。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)