神仏しんぶつ)” の例文
この点にいたっては芸妓よりも多く人をあざむくもので、神仏しんぶつの目より見たら、恐らくは芸妓よりはるかにおとったものと思われましょう
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「いや、予が前で神仏しんぶつの名は申すまい。不肖ふしょうながら、予は天上皇帝の神勅を蒙って、わが日の本に摩利まりの教をこうと致す沙門の身じゃ。」
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ただひたすら、めぐりあう日は神仏しんぶつのおむねにまかせて、坂東ばんどう三十三ヵしょのみたまいのりをおかけなさい。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのへんにも幾つかほこらがあり、種々の神仏しんぶつが祭つてあるらしいが、夜だからよくは分からない。老木のこずゑには時々木兎みみづく蝙蝠かうもりが啼いて、あとはしんとして何の音もしない。
仏法僧鳥 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
世を果敢はかなんで居るうちは、我々の自由であるが、一度ひとたび心を入交いれかへて、かかところへ来るなどといふ、無分別むふんべつさへ出さぬに於ては、神仏しんぶつおはします、父君ちちぎみ母君ははぎみおはします洛陽らくようの貴公子
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
遠い神仏しんぶつを信心するでもなければ、近所隣の思惑おもわくや評判を気にするでもなく、流行はやりとか外聞がいぶんとかつきあいとか云うことは、一切禁物で、たのむ所は自家の頭と腕、目ざすものは金である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
大分だいぶうぬも年を取ったが此の不届者め、てまえが今まできているのは神仏しんぶつがないかと思って居た、この悪人め、てまえは宜くも己の娘のおやまを、先年信州白島村に於て殺害せつがいして逐電致したな
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
人間はそうしたものではない。腰がてば歩いて捜す。病気になれば寝ていて待つ。神仏しんぶつの加護があれば敵にはいつか逢われる。歩いて行き合うかも知れぬが、寝ている所へ来るかも知れぬ
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それ、もと武士ぶしたるものは、弱きをあわれみ、力なき者を愛し、神仏しんぶつをうやまい、心やさしくみだりにたけきをあらわさず、をもって、まことむねとするのが、しんの武士というもの——
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分みずからなせしわざとは思はず、祈念きねんこらせる神仏しんぶつがしかなさしめしを信ずるなり。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
お町はようや安堵あんどして、其の夜は神仏しんぶつがん掛けて、「八百万やおよろずの神々よ、何卒なにとぞ夫文治郎にうてかたきを討つまで、此の命をまっとうせしめ給わるように」とまたゝきもせずの明くるまで祈って居りました。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)