“牝(め)” の例文
それこそ本当の児(こ)獅子が牝(め)獅子の乳へでも狂い寄るように、お綱の袂(たもと)がほころびるほど、両方から、むしゃぶりついてきたのである。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
亞麻色(あまいろ)の薔薇(ばら)の花、華車(きやしや)な撫肩(なでがた)にひつかけた格魯謨色(クロオムいろ)の輕い塵除(ちりよけ)のやうな亞麻色(あまいろ)の牡(を)よりも強い牝(め)と見える、僞善(ぎぜん)の花よ、無言(むごん)の花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
坂にさしかゝれるばかりなるころ、見よ一匹の牝(め)の豹あらはる、輕くしていと疾(はや)し、斑點(まだら)ある皮これを蔽へり 三一—三三
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
荷車は二頭の牛に挽(ひ)かせる物と定(きま)つて居るらしいが、牝(め)牛はヒンヅ教でシヷ神(しん)の権化(ごんげ)である所から絶対に使役しない。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛、与謝野晶子(著)
アンナは黒い小さな牝(め)犬を飼っていた。賢そうなやさしい眼をした犬で、家の甘えっ児(こ)となっていた。ブラウンはこの犬をたいへんかわいがっていた。
それに牝(め)獅子は子宮内膜炎を患っているから、一切くれてやらないが、おかしいのは狂犬病のはやったときなど、幾人となく獅子のたてがみの毛をもらいに来た。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
牝(め)獅子の乳で育ったと云(い)う野蛮人の猛将を、細い腕(かいな)で刺し殺した猶太(ユダヤ)の少女(おとめ)の美しい姿が、勇ましい面影が、蝕画(エッチング)のように、彼女の心にこびりついて離れなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
首に綱をつけた牡(お)山羊を木山船長が、牝(め)山羊を仲仕の「ヤの字」が引っぱっている。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
牝(め)牡(お)とも二歳で能(よ)く交われど、二歳以上で交わる方強い駒を産む、牡は三十三歳まで生殖力あり、かつて四十まで種馬役を勤めた馬あったが、老いては人に助けられて前体を起した。
若衆は牛舎の仕事を終わって朝飯(あさめし)にはいってくる。来(く)る来(く)る当歳の牝(め)牛が一頭ねたきり、どうしても起きないから見て下さいというのであった。僕はまた胸を針で刺されるような思いがした。
去年 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
されど熊は次第(しだい)に馴(なれ)可愛(かあいく)なりしと語るうち、主人は微酔(ほろゑひ)にて老夫(らうふ)にむかひ、其熊は牝(め)熊ではなかりしかと三人大ひに笑ひ、又酒をのませ盃の献酬(やりとり)にしばらく話消(はなしきえ)けるゆゑ強(しひ)て下回(そのつぎ)をたづねければ
その夜生れし牝(め)の馬は
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
牡(を)牛をも大切にする風があつて、其(その)角を絵具で染め又は金属で被(おほ)うて居るのを見受けた。又牝(め)牛の糞(ふん)を幸福の呪(まじなひ)に額へ塗つて居るヒンヅ人にも沢山(たくさん)出会つた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛、与謝野晶子(著)
ヒンヅ教の一寺院を訪(と)うて見たが、屋上にも堂前(ぜん)にも牝(め)牛の像を祀(まつ)ること恰(あたか)も天神(てんじん)様の前の如く、牛糞(ぎうふん)を塗つた四五人の僧は牛皮(ぎうひ)の靴を穿(は)いて居る僕等を拒んで堂内に入れ無かつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛、与謝野晶子(著)