無二無三むにむさん)” の例文
そうしてもう一度無二無三むにむさんに、妻の体を梁の下から引きずり出そうと致しました。が、やはり妻の下半身は一寸いっすんも動かす事は出来ません。
疑惑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
無二無三むにむさんに攻めつぶし、あるいは攻めがたいものは欺いて連れ出して縛り首を打ったけれども、これは決して容易な事業でないからして
名字の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
折から一天いってんにわか掻曇かきくもりて、と吹下す風は海原を揉立もみたつれば、船は一支ひとささえささえず矢を射るばかりに突進して、無二無三むにむさんに沖合へ流されたり。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
次第しだい/\に鐵車てつしや曳上ひきあげ、遞進機ていしんき螺旋形揚上機らせんけいやうじやうきとは反對はんたいに、後方こうほう巖石がんせき支臺さゝへとして、彈力性だんりよくせい槓桿こうかん伸張しんちやうによつて、無二無三むにむさん鐵車てつしや押上おしあげるのである。
お浜は片手には泣き叫ぶ郁太郎をかかえて、片手を伸べて無二無三むにむさんに竜之助を突き起します。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
伊勢いせの陣から引っかえした秀吉勢ひでよしぜいは、おそろしい勢いで、無二無三むにむさんに北国街道かいどうをすすみ、堂木山どうきざんに本陣をおいて、柴田勢しばたぜいを追いちらし、きたしょうまでけすすんでゆくというありさまです
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
馬は、きずの痛みでうなっている何小二かしょうじを乗せたまま、高粱こうりょう畑の中を無二無三むにむさんに駈けて行った。どこまで駈けても、高粱は尽きる容子ようすもなく茂っている。
首が落ちた話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
が、一刻も早く東京へ——ただその憧憬あこがれに、山も見ず、雲も見ず、無二無三むにむさんに道を急いで、忘れもしない、村の名の虎杖いたどりに着いた時は、つえという字にすがりたいおもいがした。
栃の実 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それから休憩時間の喇叭らっぱが鳴るまで、わが毛利先生はいつもよりさらにしどろもどろになって、あわれむべきロングフェロオを無二無三むにむさんに訳読しようとした。
毛利先生 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
人の身のたけよりも高い高粱は、無二無三むにむさんに駈けてゆく馬に踏みしだかれて、波のように起伏する。
首が落ちた話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼は素早すばやく足をちぢめて、相手の武器を飛び越えると、咄嗟とっさに腰の剣を抜いて、牛のえるような声を挙げた。そうしてその声を挙げるが早いか、無二無三むにむさんに相手へ斬ってかかった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)