すべ)” の例文
この時魔の如き力はのんどやくしてその背をつ、人の死と生とはすべて彼が手中に在りて緊握せらる、欲するところとして得られざるは無し。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
然れども彼れは一党派の首領のみ、国民の嚮導者きやうだうしやには非る也。何となれば、彼れは其一身に於て日本国民が要求するすべての者を代表せざれば也。
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
「要するに、三がいすべてこれ一心ぢや、寒いといふ心、暑いといふ心、心頭を滅却すれば火もまた凉しぢや。」
この一冊は表紙に「㦣語、抽斎述」の五字が篆文てんぶんで題してあって、首尾すべて抽斎の自筆である。徳富蘇峰とくとみそほうさんの蔵本になっているのを、わたくしは借覧した。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
汝のすべての感情に訴え喜怒哀楽の情かわるがわる起り汝をして少しも倦怠なからしむ、汝聖書を楽読らくどくせよ。
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
いにしへは此村薔薇さうびに名あり。見渡す限りくれなゐの霞におほはれたりしよし物に見えたれども、今は一株をだに留めず。身邊すべて是れ緑にして、其色遙に山嶽につらなれり。
試掘もしくは採掘の事業、公益に害ある時は、農商務大臣は既に与へたる許可を取消すことを得とあり——然るに栃木県下野しもつけ国上都賀郡足尾銅山より流出するすべての鉱害は
政治の破産者・田中正造 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
霧は捲き去り捲き来って、天上山上すべての有象を一擲いってきして、宇宙の永劫に投じ去るかと思わせる。暫くして僅かのひまから鷲ヶ峰の雑木林が、直ぐ目の先に見えたが、倏忽しゅくこつに消え失せた。
女子霧ヶ峰登山記 (新字新仮名) / 島木赤彦(著)
イヤモウ人間は一擲いってき千金すべて是れ胆ぢや。嚢中自ら銭有りといふこともあるがな。心配いたすな。大鈞は私力なく万理自ら森着すぢや。イヤ誰しもが黄白には悩みおるて。ワアッハッハッハッハ。
亡国の歌は残つて玉樹空し 美人の罪は麗花と同じ 紅鵑こうけん血はそそ春城しゆんじようの雨 白蝶魂は寒し秋塚しゆうちようの風 死々生々ごう滅し難し 心々念々うらみ何ぞきわまらん 憐れむべし房総佳山水 すべて魔雲障霧の中に落つ
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
万瓦渾如水晶 万瓦まんがすべ水晶すいしょうよそうがごと
礫川徜徉記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
すべあらけしめ
とにもかくにも今一目見ずば動かじと始におもひ、それはかなはずなりてより、せめて一筆ひとふで便たより聞かずばと更に念ひしに、事は心とすべたがひて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
人若し此世のすべての物よりも愛すべく、此世の渾ての物を絶つも猶絶つ能はざるものを有すれば是れ信条を有する也。
信仰個条なかるべからず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
彼の正気は時に鬱屈するといえども、明徳再び光を放つ時は、宇宙に存するすべての善なるもの渾ての美なるものは彼の認むる所となるなり、偽善諂媚てんびは彼の最も嫌悪する所なり
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
思の儘にち給ひぬ、おん身も嬉しと思ひ給ふならん、千萬人の心はすべて君に奪はれたり、君は初め我がいかに君のために胸を跳らせ、後君の成功のするところに倍するに及びて
すべてこの旅の間に、洋服の勢力せいりょくあるを見しこと、幾度か知られず。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
我と彼との愛こそ淤泥おでいうちに輝く玉の如きものなれ、我はこの一つの穢れざるをいだきて、この世のすべて穢れたるを忘れん。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
我は辛く一席をあがなふことを得き。いづれの棧敷さじきにも客滿ちて、暑さは人を壓するやうなり。演劇はまだ始まらぬに、我身は熱せり。きのふけふの事、わがためにはすべて夢の如くなりき。
花鳥風月、すべて是れ自然が自己をあらはすべき形式たるに過ぎざるを知る。彼れは物質と機関との排列として自然を見る能はず、大なる意味、不思議なる運行を遂ぐる者として之れを見る。
詩人論 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
彼はすべて柔和に渾て忠実なるに我は幾度いくたびか厳酷にして不実なりしや、これを思えば余は地に恥じ天に恥じ、報ゆべきの彼は失せ、ゆるしを乞うの人はなく、余は悔い能わざるの後悔にくるしめられ
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
此時に至るまで頼氏の通信はすべて関五郎が辨じてゐたのである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
旧幕時代を慕つて明治の文明をにくむ時勢おくれの老人も、若しくは算盤そろばんを携へて、開港場に奔走する商人も、市場、田舎、店舗、学校、すべての光景は我眼前に躍如やくじよとして恰も写真の如くに映ず。
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)