柏木かしわぎ)” の例文
現に柏木かしわぎの附近では毎年二月五日に「南朝様」をお祭り申し、将軍の宮の御所あとである神の谷の金剛寺こんごうじにおいておごそかな朝拝の式を挙げる。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
柏木かしわぎが普通の風采ふうさいでしかないのにもかかわらず思い上がり切っていて、宮を美人でないと思うふうを時々見せたことを宮はお思い出しになると
源氏物語:40 夕霧二 (新字新仮名) / 紫式部(著)
騎馬の兵士が大久保柏木かしわぎ小路こみちを隊をなしてせ廻るのは、はなは五月蠅うるさいものである。いな五月蠅いではないしゃくにさわる。
下総成田しもうさなりたの不動様は、秀郷の守り仏であったという話でありますが、東京の近くの柏木かしわぎという村の者は、けっして成田には参詣しなかったそうであります。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
若菜において文章も叙述の方法も拙かった作者は柏木かしわぎになり、夕霧ゆうぎりになり、立派なものになってきた。内容に天才的な豊かなものが盛られているからである。
柏木かしわぎには危険人物がある、大杉一味の主義者を往来へならべて置いて、片端かたっぱしからピストルでストンストン打ったら小気味こきみかろう」とパルチザン然たる気焔きえん
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
神田・同朋町どうぼうちょう。さらに晩秋には、神田・和泉町いずみちょう。その翌年の早春に、淀橋よどばし柏木かしわぎ。なんの語るべき事も無い。朱麟堂しゅりんどうと号して俳句に凝ったりしていた。老人である。
甲州口の立場たてば柏木かしわぎ村から野へはいったのである。十二所権現の丘から、十貫坂じっかんざかとよぶ藪坂を下りてからは、ほとんど、歩いても歩いても、同じような野であった。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十六七ぐらいに見える異様な洋服の少年が一人、柏木かしわぎの私のうち門口かどぐちに在る枳殻垣からたちがきそばに立っていたが、私が門口を這入はいろうとすると、帽子をいで丁寧にお辞儀をした。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
柏木かしわぎ停車場ステーションを下りると二丁ぐらいな所を、つい気がつかずにうちから車に乗って出たので時間はかえって長くかかった。火葬場の経験は千代子に取って生れて始めてであった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ごとなんぞは、それはそれとして、——今からもう十何年か前の、そう、たしか夏の初めだったと思う、その頃はまだ柏木かしわぎと呼ばれていたあの方が始めて私に御文をよこされたのである。
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
私の生れましたのは柏木かしわぎ村——はい、小諸まで一里と申しているのです。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「私は柏木かしわぎですよ」
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
なんらかのすぐれたところを持っている者の死は常に悲しく思召おぼしめす方であったから、柏木かしわぎ衛門督えもんのかみはまして朝夕にお出入りしていた人であったし
源氏物語:37 横笛 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ここから柏木かしわぎまではわずか一里の道程だと聞いていたけれど、ここには川の縁に温泉が湧いていると云うので、その湯へ浸りに川のほとりへ行ってみた。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
桜には上野の秋色桜しゅうしきざくら平川天神ひらかわてんじん鬱金うこんさくら、麻布笄町長谷寺こうがいちょうちょうこくじ右衛門桜うえもんざくら、青山梅窓院ばいそういん拾桜ひろいざくら、また今日はありやなしや知らねど名所絵にて名高き渋谷の金王桜こんのうざくら柏木かしわぎの右衛門桜
十二の時に、柏木かしわぎ叔父おじさんが、私の綴方つづりかたを「青い鳥」に投書して下さって、それが一等に当選し、選者の偉い先生が、恐ろしいくらいにめて下さって、それから私は、駄目になりました。
千代女 (新字新仮名) / 太宰治(著)
月だけが前の流れに浮かんでいるのを見て、柏木かしわぎがよくここで音楽の遊びなどをしたその当時のことが思い出された。
源氏物語:40 夕霧二 (新字新仮名) / 紫式部(著)
本所ほんじょ。鎌倉の病室。五反田ごたんだ同朋町どうほうちょう和泉町いずみちょう柏木かしわぎ新富町しんとみちょう。八丁堀。白金三光町しろがねさんこうちょう。この白金三光町の大きな空家あきやの、離れの一室で私は「思い出」などを書いていた。天沼あまぬま三丁目。天沼一丁目。
十五年間 (新字新仮名) / 太宰治(著)
按察使あぜち大納言といわれている人は、故人になった太政大臣の次男であった。柏木かしわぎ衛門督えもんのかみのすぐの弟である。
源氏物語:45 紅梅 (新字新仮名) / 紫式部(著)
これは自分の父であるというだけで思ったことではない、その時に故人の柏木かしわぎが自分は好きになったのである。
源氏物語:39 夕霧一 (新字新仮名) / 紫式部(著)
薫の容姿には柏木かしわぎの再来かと思われる点があったから、年月のたつうちに思い紛れていた故主のことがまた新しい悲しみになってきて、弁は涙におぼれていた。
源氏物語:48 椎が本 (新字新仮名) / 紫式部(著)
その日の幾つかの車とか前駆の人たちとかは皆大将からよこされた。かえって柏木かしわぎの弟たちなどは自身のせわしさに紛れてか、そうした気はつかないふうであった。
源氏物語:39 夕霧一 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そのほかには柏木かしわぎの手で、病はいよいよ重くなり、忍んでおいすることも困難になったこの時に、さらに見たい心のかれる珍しいことがそちらには添っている
源氏物語:47 橋姫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
大将は柏木かしわぎが命の終わりにとどめた一言を心一つに思い出して何事であったかいぶかしいと院に申し上げて見たく思い、その時の御表情などでお心も読みたいと願っているが
源氏物語:37 横笛 (新字新仮名) / 紫式部(著)
柏木かしわぎが宮にお持ちする愛情のこまやかでないのを知った時に、御息所は悲観したものであるが、ただ一人の妻として形式的には鄭重ていちょうをきわめたお取り扱いを故人がしたことで
源氏物語:39 夕霧一 (新字新仮名) / 紫式部(著)
柏木かしわぎが日夜煩悶はんもんを続けた果てに病を得て、死に至ったことを言って非常に弁は泣いた。
源氏物語:47 橋姫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ある疑問に似たものを持つ思いなしか、まなざしなどにはその人のよりも聡慧そうけいらしさが強く現われては見えるが、切れ長な目の目じりのあたりのえんな所などはよく柏木かしわぎに似ていると思われた。
源氏物語:37 横笛 (新字新仮名) / 紫式部(著)
笛は柏木かしわぎの大納言が夢に出て伝える人を夕霧へ暗示した形見のもので、非常によいの出るものであると六条院がお愛しになったものを、右大将へ贈るのはこの美しい機会以外にないと思い
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)