木下闇こしたやみ)” の例文
杉と檜と鬱蒼として繁って、真昼でも木下闇こしたやみを作っているらしいところに行き、柵のところで小用こようを足した。
仏法僧鳥 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
やがて、座敷から、昼間買った百合の花を取って来て、自分の周囲まわりき散らした。白い花弁が点々として月の光にえた。あるものは、木下闇こしたやみほのめいた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
山續やまつゞきに石段いしだんたかく、木下闇こしたやみ苔蒸こけむしたるをかうへ御堂みだうあり、觀世音くわんぜおんおはします、てら觀藏院くわんざうゐんといふ。
逗子だより (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
夏なら木下闇こしたやみの、枯れ枝ながら鬱陶しくさし交した下は、溜った落葉の、土の匂も湿けて暗かった……
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
はるかにおおかみが凄味の遠吠とおぼえを打ち込むと谷間の山彦がすかさずそれを送り返し,望むかぎりは狭霧さぎり朦朧もうろうと立ち込めてほんの特許に木下闇こしたやみから照射ともしの影を惜しそうにらし
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
それから上陸して境駅の入際いりぎわからすぐ横へ切れると、森の中の小径へかかッた,両側にはすぎひのきならなどのたぐいが行列を作ッて生えているが、上から枝がかぶさッていて下に木下闇こしたやみが出来ている
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
ちょうど、道もジメジメした長い木下闇こしたやみへかかっている。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いまは小暗き木下闇こしたやみ
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
杉とひのき鬱蒼うつさうとしてしげつて、真昼でも木下闇こしたやみを作つてゐるらしいところに行き、さくのところで小用こようを足した。
仏法僧鳥 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
長蔵さんと赤毛布は山路にれていると見えて、よくも見えない木下闇こしたやみを、すたすた調子よくあるいて行く。これは仕方がないが、小僧が——この小僧は実際物騒である。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
木下闇こしたやみ、その横径よこみち中途なかほどに、空屋かと思う、ひさしの朽ちた、誰も居ない店がある……
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
木下闇こしたやみ、其の横径よこみち中途なかほどに、空屋あきやかと思ふ、ひさしちた、たれも居ない店がある……
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
木下闇こしたやみの一本路が一二丁先で、ぐるりと廻り込んで、先が見えないから、不意に姿を出したり、隠したりするような仕掛しかけにできてるのかも知れないが、何しろ時が時、場所が場所だから
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)