文身ほりもの)” の例文
さいはひお前の文身ほりものを洗ひ落すついでに、一皮いでやらうぢやないか、石原の利助を三助にするなんざア、お前に取つちや一代のほまれだ
火鉢の薬罐やかんに一本ほうりこんで、御意見無用いのち不知の文身ほりものを見せながら、ちょいちょい指さきで摘まみ上げてみては、またズブリと湯へ落しながら
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
荷物を其処へ置いて木剣作りの小脇差をしたなりで、つか/\と出て来て見ると、文身ほりものだらけのでッぷりとふとった奴が、腰の処へ襦袢ようなものを巻き附け
般若はんにゃとめさんというのは背中一面に般若の文身ほりものをしている若い大工の職人で、大タブサに結ったまげ月代さかやきをいつでも真青まっさおに剃っている凄いような美男子であった。
伝通院 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「このとおり、ふたりとも蜘蛛くも文身ほりものりあって、おれは海で一旗ひとはたあげるし、呂宋兵衛は山に立てこもって、おたがいに天下をねらおうとちかって別れた仲なのだ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
着物の破れ目からは、恋の殿堂や炎を出してる心臓やキューピッドなどの文身ほりものが見えていた。
文身ほりものの様に雲竜うんりゅうなどの模様もようがつぶつぶで記された型絵の燗徳利かんどくりは女の左の手に、いずれ内部なか磁器せとものぐすりのかかっていようという薄鍋うすなべもろげな鉄線耳はりがねみみを右の手につままれて出で来る。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その女は腕に文身ほりものなどしていた。繻子しゅす半衿はんえりのかかった軟かものの半纏はんてんなどを引っけて、すすけた障子の外へ出て来ると、お庄の手に小遣いをつかませたり、菓子を懐ろへ入れてくれたりした。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
風呂の中で歌祭文うたざいもんを唄つてゐるかかあたばね、上り場で手拭をしぼつてゐるちよんまげ本多ほんだ文身ほりものの背中を流させてゐる丸額まるびたひ大銀杏おほいてふ、さつきから顔ばかり洗つてゐる由兵衛奴よしべゑやつこ水槽みづぶねの前に腰を据ゑて
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
お角は背中の文身ほりものを質においても、奉納の額に入れ上げる決心らしい。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
文身ほりものだらけのかばね隅田川に浮きしとふ記事きじも身に沁む山の夜ふけに
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
文身ほりものだらけの町の破落戸ごろつきと緒方の書生ばかりが得意の定客じょうきゃくだ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ガラツ八のくるぶしの桃などは、あまりケチなんで吹き出させてしまひましたが、不思議なことに錢形平次の文身ほりものは一寸當てました。
なるほど、そういうお絃の右の手の甲には、御意見無用、いのち不知しらずと、二行に割った文身ほりものが読めるのだった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
川添いの小家こいえの裏窓から、いやらしい姿をした女が、文身ほりものした裸体はだかの男と酒をんでいるのが見える。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ひとたび、花和尚がこううなると、たちまちその満面も、背の文身ほりもの緋桜ひざくらのようになる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
勘太ッてえ奴も矢張やっぱりそうなんで、脊中に墨染の文身ほりものをしているからでございます。
風呂の中で歌祭文うたざいもんうたっているかかあたばね、上がり場で手拭てぬぐいをしぼっているちょん髷本多まげほんだ文身ほりものの背中を流させている丸額まるびたい大銀杏おおいちょう、さっきから顔ばかり洗っている由兵衛奴よしべえやっこ水槽みずぶねの前に腰をえて
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
十二支組の女首領で、頭の地へ鼠の文身ほりものをしているお珊が誰の手を借りたか、見事に縄を切って逃げ出してしまったのです。
いのち不知と二行の文身ほりものの読めるお絃の右手が伸びて来て、つと右近の耳をつかんだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
人足が法被はっぴを腰に巻き附け、小太い竹の息杖を突き、胴中どうなか細引ほそびきで縛った長持を二人でかつぎ、文身ほりものといってもかざりではございません、紺の木綿糸を噛んで吐き附けた様な筋彫すじぼり
言わないのね、じゃ、私が高橋八寿雄に代って告白しましょう。——諸君、わたくし、高橋はですね、実は掏摸すりでございます。うそだと思うなら、襦袢じゅばんの袖をめくッて、二の腕の文身ほりもの
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「これから覗いて見ようと想ふんだが、のみした程でもいゝから、身體に文身ほりもののない者は入れないことになつて居る」
鳩尾みぞおちの釘抜の文身ほりものをちらちらさせて、上りがまちにしゃがんでいたのだった。
文身ほりものがあるかということだよ、——実は今日両国の『種村たねむら』に“文身自慢の会”というのがあるんだ」
昔の裁判はズボラなようで誠に味のあったもの、時は嘉永二年秋、桜の文身ほりものをして居たという名奉行、遠山左衛門尉景元かげもとの逸話、按摩の仇討という話はこれです。
禁断の死針 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「考えたってこれが判るわけはねえ、足の裏に文身ほりもののある人間は親分——」