さら)” の例文
「ばかなやつだ」と六郎兵衛は手酌で飲んだ、「ちょっと油断をしてみろ、一ノ関がすぐにさらってゆくぞ、きさまは頭の悪いやつだ」
「何、これが一番だ。入れ物などに入れて置いては、すきをねらってさらって行かれてしまう、こうして置けばろうたって奪れやしない」
あんな上等の足駄をあんな男にはいてゆかれるのも勿体なかったし、殊には中村のを無断でさらってゆかれたのが忌々しかった。
変な男 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
身代りとして舟へ飛びこんだ莫蓮女ばくれんものの口では、お艶は本所の殿様とやらにさらわれたとのことだったが、……どうしてるだろう? こう思うと
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
これから何だね、ゴーッて足までさらってきそうな奴が吹くんだね。するとじきまた、白いのがチラチラ降るようになるんだ。旅を渡る者にゃ雪は一番御難だ。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
僕の考えでは、黒田さんは、私を襲ったと同じ怪物に、いきなりさらわれたんだと思いますよ。あの怪物が、追っかけた黒田さんの身体をつかまえ、空中へさらいあげたのでしょう。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「さてはうぬが、この淫乱妾のお先棒になって、京弥どのをさらってまいったのじゃな」
「生田からのもどみちで、自暴酒やけざけに酔った京極家の若侍どもが、お嬢様と私を押ッ取り巻き、私はこの通り浅傷を受けた上に、千浪様をさらって如意輪寺にょいりんじの裏へ連れ込んで行きました」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、その衝動が、彼女の魂を形もあまさずさらってしまって、やがて鈍い目付きになり、それは、眠っている子供のように見えた。滝人は、その様子に残忍な快感でも感じているかのように
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
と少し籠が揺れ細い羽が風の中にさらはれてゆく。
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
「編笠をかぶっていたし、はなれていたのでよくわかりません、滝尾どのも、いきなりさらわれようとした、としか云いませんでしたが」
途中でへんなやつにさらわれたがそれもまた、もうひとり変り種があらわれて取り返してくれた——あの一くせある、風格の乞食はいったい何者であろう?
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
にも拘らず、かような場所へそこもとさらって参るとは、またどうしたことじゃ
どこかへさらってゆかれたにしても、あとのほうならまず躯に別条はないだろう、人に知れないところにかくまわれて、いかさま賽を
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
いってみれば縁もゆかりもないならず者が、ときどき踏み込んで来ては、うちの金や物をさらってゆく、というかたちであった。
枡落し (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「——あいつは江戸から来て、さんざっぱらわれわれを愚弄して、おまけに笙子嬢までひっさらって、そうして、ひらりといっちまったねえ」
半之助祝言 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
連れ去ったのは刑事だともいうし、半助がいかさまさいを作っていたため、プロの賭博者たちがさらっていったのだともいわれた。
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
すると、水の底にいる小魚が、みんなその輪に植えた曲げ釘にひっかかって来るので、底の小魚はきれいにさらわれてしまう。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
すると、水の底にいる小魚が、みんなその輪に植えた曲げ釘にひっかかって来るので、底の小魚はきれいにさらわれてしまう。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
気もそぞろに、境内を走廻はしりまわったけれど、早くも曲者たちは娘をさらって逃げたらしい、どこに一人の姿もみつからなかった。
武道宵節句 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「みんな山霊さまにさらわれちまって、どこへ持ってゆかれるもんだか、死躰もみつからず、骨も残っちゃいねえのです」
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その事業がおもわく違いなら云うまでもなくつぶれるし、将来有望で発展性のあるものなら、たちまち大資本の手がのびてきてさらわれてしまうのだ。
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「山川さんも文子と一緒にさらわれたらしい」龍介君は歯噛みをして口惜くやしがった。そして若者の顔をにらみつけながら
危し‼ 潜水艦の秘密 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そして欲しくなれば、ふじこやなをこのような娘たちをさらって、藁堆こうたい馬草まぐさの中で思うままに寝る。それがおれの望みだ、四千余石の館も要らない。
「私も同様ですが、貴女や虎之助さんも危ないんです、いま詳しいことを話している暇はないが、兵部どの一味が、われわれをさらおうとしているんです」
「河童第一号」と書いてあるからには、敬吉をさらったのも、やはりいま評判の「河童」の仕業にちがいない。
水中の怪人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「わかった、あのときの男だ」と新八は云った、「いつか向島の土堤どてで、石川兵庫介さんにさらわれようとしたとき、駆けつけて来て助けた男だ、そうだろう」
そこで電灯を消して撮影の邪魔をしたが、それと気づいて山川少将に扮装していた軍事探偵は、撮影したフィルムと文子をさらって、逸早いちはやくも逃亡したのである。
危し‼ 潜水艦の秘密 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「あいつはおれの誇りを食い名を食った、おれを世間からぎ、友達からさらった、おれにはもう一滴の血も残ってはいない、骨だけだ、それで、あいつは逃げた」
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「おうさびいさびい」のろはわざとふるえ声で云いながら、市三の脇にある火鉢へいってかがみこんだ、「一朱おっことしたうえに財布さいふをかっさらわれたような心持だ」
源蔵ヶ原 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「つめさいは博奕の法度、場銭をさらったうえに簀巻すまきにして川へ叩きこまれても文句の云えねえのが仲間の定法だ、——正さんの顔なら凄味すごみがあってきっとおどしが利くぜ」
お美津簪 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
集めた。無理な遣繰りだったんだろう。そいつがたたって卒中で倒れ、二日めにお亡くんなりなすった。すると高次のやつめ、その旦那の集めた金をさらって消えやがった
夜の蝶 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「俗に神隠しとか、天狗てんぐさらわれる、などということを申します」と或るとき吉塚が云った
その木戸を通って (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
こんどは別の下職が箪笥たんすの中の物や少しばかり貯めた金をさらって逃げた……おまえが生れたのはそのじぶんだったが、もともとあまり達者でもなかったおまえのおっ母さんは
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
今夜の生贄いけにえは五人だが、丁度これで五人目だから、これで役目も終った、あとはさらって来た例の女をさかなに朝まで呑み明そう——などと、不気味なことを低い声で話し合っている。
其角と山賊と殿様 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「いま帰ってゆきました」老人は可笑おかしそうにのどで笑った、「……面白い話を聞きましたよ、お留守宅にいたあの浪人共が、ゆうべ夜中に銭をさらって逃げたということでございます」
内蔵允留守 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
かよをさらって来たのはよけいかもしれないがあの人を死なせたからってべつに焼打ち以上の価値があるわけじゃない、そんなに云われるほどばかなまねをしてはいないと思いますがね
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「地図をかっさらってきやした、此方こっちへきて下さい!」
骸骨島の大冒険 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「暴漢が現われて御老職をさらっていった」という。
若殿女難記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
する覚悟まで決めたが、元の起こりは——伯母にさらわれた四十五両、それが返ったと思っちゃ悪いだろうか、これだけあれば小さくとも店が持てる、そしてお滝さん、……もしおまえに障りがないんなら、私と一緒に苦労を
金五十両 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
……今度の手柄は、お天気安がさらったわけさ
初午試合討ち (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「崩れた石垣がどうかして、この家の土台の下に水の抜ける穴があいたんだろう、この音はそこから水の抜ける音だ、さっきよりずっと大きくなってるが、そうさ、こいつがもっと大きくなれば、この家はたぶんぶっ倒れるか、水にさらわれるかするだろうぜ」
暴風雨の中 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)