すく)” の例文
と、思った瞬間に、何かしら人間らしいものから片足をすくい上げられたと思うと、モンドリ打って芝生の上にタタキ付けられた。
白菊 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
いうより早く、ひとりの仲間が、彼の足をすくいあげた。あぶみに足の届いていない伊織の体は、苦もなく、馬の向う側へ転げ落ちた。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
青石横町にいると、五月雨さみだれの雨上りの日などすくい網をもって、三枚橋の下へ小蝦こえびや金魚をすくいに来たから、石段をおりれば道は知っていた。
彼の兄は彼に劣らぬ蛇嫌いで、ある時家の下の小川で魚をすくうとて蛇を抄い上げ、きゃっと叫んでざるほうり出し、真蒼まっさおになって逃げ帰ったことがある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
無理に跳ね起きようとして足をすくうと、新五郎は仰向に倒れる、新吉は其のに逃げようとする、新五郎は新吉の帯を取って引くと、仰向に倒れる、新吉も死物狂いで組付く
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そして庭の緑に眼を放ちながら、麺麭をちぎり卵をすくい……私がえを満たしている間、娘二人は両端に座を占めて、紅茶を飲みながら久しぶりの客をもの珍しそうに、東京の話
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
大勢がどや/″\驅け寄つて、口々に荒い言葉で指圖し合つて、燃え付いてゐる障子を屋根から外へ抛り出したり、バケツや手桶てをけ水甕みづかめの水をすくつて來たりした。父の目も血走つた。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
やがて、白い手を出して籾をすくつて見た。一粒口の中へ入れて、掌上てのひらのをもながなが
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
此間こないだ、お茶屋の旦那の引懸けたのなどは、引いては縦ち、引いては縦ち、幾ら痿やそうとしても、痿えないでしよう。やや暫くかかって漸くすくい上げて見ると、大きな塩鮭程なのでしょう。
大利根の大物釣 (新字新仮名) / 石井研堂(著)
呪師羊の角もて呪したがなかなか出で来ぬから、更に犢子の前に火を燃して呪するとその火蜂とって蛇穴に入った黒蛇蜂に螫され痛みに堪えず、穴を出でしを羊角ですくうて呪師の前に置いた。
それを手鉤ですくい上げ、ポンとびくの中へ抛り込む。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
或は更に稀薄きはくにしたのを、剥椀はげわんすくうてはざぶり/\水田にくれる。時々は眼鼻に糞汁ふんじゅうがかゝる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
極く幼少おさない時の記憶が彼の胸に浮んで来た。彼は自分もまた髪を長くし、手造りにしたわらの草履を穿いていたような田舎の少年であったことを思出した。河へすくいに行ったかじかを思出した。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
このおおき釣師、見物人の外に、一種異りたる者の奔走するを見る。長柄ながえ玉網たまを手にし、釣り上ぐる者を見るごとに、即ち馳せて其の人に近寄り、すくひて手伝ふを仕事とする、奇特者きとくしゃ? なり。
東京市騒擾中の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
たいすくい込み、どんと、次の部屋まで投げつけると、その脚か手が、炉の上の自在鉤じざいかぎへぶつかったのであろう。朽ち竹の折れる響きと共に、炉の口から、火山のような白い灰があがった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小盤台を二つ位しか重ねていないが、ちいさなかれいや、こちがピチピチ跳ねていたり、生きたかにや芝海老えびや、手長てながや、海の匂いをそのままの紫海苔のりと、水のようにいて見えるすくいたての白魚の間から
玉網たまを擬し、暗流を見つめて、浮かばすくわんと相待つ。
大利根の大物釣 (新字新仮名) / 石井研堂(著)