手頼たより)” の例文
勘次かんじ船頭せんどうわざ自分じぶんきのめしたものゝやうにかんじてひど手頼たよりない心持こゝろもちがした。かれ凝然ぢつかゞんで船頭せんどうあやつまゝまかせた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
いな!』と強く自ら答へて見た。自分は仮にも其麽そんな事を考へる様な境遇ぢやない、両親ふたおやはなく、一人ある兄も手頼たよりにならず、又成らうともせぬ。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
彼は今度は裏から廻ってみたが、やはり雨戸は閉って、ランプの光がかすかに闇を漏れるのみであった。モウ最後である。彼の手頼たよりは尽きたのである。
愛か (新字新仮名) / 李光洙(著)
憂鬱にその声を曇らせたが、「見当もつかぬ。見当もつかぬ。しかしきっと眼付めつけて見せる。耳についている鼓の音! これを手頼たよりに眼付けて見せる」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
自分はいまだにたより一つよこさないという呑気のんきな話、とうてい末始終手頼たよりになるような男ではございません。
宋は女眞(金)の力を手頼たよりに、契丹(遼)を滅ぼしたのはよいが、それも束の間で宋自身も女眞の爲に支那の北半を占領され、契丹の時よりも一層の壓迫を受けた。
支那猥談 (旧字旧仮名) / 桑原隲蔵(著)
取止めのない男の気持や言草いひぐさが何だかふは/\してゐて、手頼たよりないやうにも思はれたが、真実ほんとうに自分を愛してくれてゐるのは、あの男より外にはないやうに思はれた。
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
親の縁を手頼たよりに馬喰町の其地此地そちこち放浪うろついて働いていた。
しかしさような宝を手頼たよりにいたすは尋常よのつね
あらゆる手頼たよりの綱が一度に切れて了つた樣で、暗い暗い、深い深い、底の知れぬ穴の中へ、獨りぼつちの塊が石塊の如く落ちてゆく、落ちてゆく。
赤痢 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
燒趾やけあとよこたはつたはりはしらからまだかすかなけぶりてつゝつぎけた。勘次かんじはおつぎを相手あひて灰燼くわいじんあつめることに一にちつひやした。手桶てをけつめたい握飯にぎりめし手頼たよりない三にんくちした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
知らない野道で日が暮れたような、この広い世界でたったひとりぼっちになってしまったような、なんとも手頼たよりない気持である。途中の電車の中のような元気はどうしても湧いて来ない。
キャラコさん:06 ぬすびと (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そこはかとなき若い悲哀かなしみ——手頼たよりなさが、消えみ明るみする螢の光と共に胸に往来して、ひとにとも自分にとも解らぬ、一種の同情が、おのづ呼吸いきを深くした。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
何でも母親の心にしては、末の手頼たよりにしてゐる娘を下宿屋の娘らしくは育てたくなかつたのであらう。
札幌 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
何でも母親の心にしては、末の手頼たよりにしてゐる娘を下宿屋の娘らしくは育てたくなかつたのであらう。
札幌 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
わしは神様に使はれる身分で、何も食物の事など構はんのぢやが、稗飯ひえめしでも構はんによつて、モツト安く泊めるうちがあるまいかな。奈何だらうな、重兵衛さん、わし貴方あんた一人が手頼たよりぢやが……
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
あらゆる手頼たよりの綱が一度に切れて了つた様で、暗い暗い、深い深い、底の知れぬ穴の中へ、独ぼつちの魂が石塊いしころの如く落ちてゆく、落ちてゆく。そして、堅くつぶつた両眼からは、涙が滝の如く溢れた。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
奈何だらうな、重兵衞さん、私は貴方あんた一人が手頼たよりぢやが……
赤痢 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)