悠久ゆうきゅう)” の例文
めぐって、動かない雲がじっとたなびいている、……悠久ゆうきゅうといったけしきだ、千年不動というけしき、いまのおれにはこのけしきは苦手だ
初夜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
柘榴口ざくろぐちの中の歌祭文うたざいもんにも、めりやすやよしこのの声が加わった。ここにはもちろん、今彼の心に影を落した悠久ゆうきゅうなものの姿は、微塵みじんもない。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかしそれはじきに忘れてしまって世界はもとの悠久ゆうきゅうな静寂に帰る。ところが五時ごろになると奇妙な音が聞こえだす。
病院の夜明けの物音 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
悠久ゆうきゅうなる天地の間にいかに自己が小なものかということを強く強く考えて見たまえ。卑俗ひぞくな欲望にあせって自我じが執着しゅうちゃくするのが馬鹿らしくなってくるよ。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
天地はこの有望の青年に対して悠久ゆうきゅうであった。春は九十日の東風とうふうを限りなく得意のひたいに吹くように思われた。小野さんはやさしい、物にさからわぬ、気の長い男であった。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それも今と少しも変らない——悠久ゆうきゅうとして黄色い濁流を、中国と日本のあいだの——大きな天地かられば一またぎのみぞに過ぎない海へ——不断に吐き出していたのである。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いかに昏迷と騒乱があったにせよ、そこには、一つの出来事、一つの問題に向っての、しずかな凝視とあじわいと沈思と——かかる悠久ゆうきゅうの時間というものはあったに相違ない。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
悠久ゆうきゅうなるふるさとを恋うる音色であった。それには、神と、死と、恋との音調がまじっていた。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
道の上の、水溜みずたまりには、水の色が静かに澄んで、悠久ゆうきゅうに淋しい流れている空の姿を映している。
凍える女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
彼はその音をなおよく聞くために、眼をすっかり閉じている。たえざる水音は彼の心を満たし、彼に眩暈めまいを与える。そのおおいかぶさってくる悠久ゆうきゅうな夢に彼は吸い寄せられる。
博厚は地に配し、高明は天に配し、悠久ゆうきゅうかぎりなし。見よ、貧しき靴屋の主人の至誠は凝って大英国の大宰相を造り出し、しかしてこの大宰相の大精神はやがて四海万国を支配せんとする事を。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
ここが自分の先祖の地だ。自分は今、長いあいだ夢に見ていた母の故郷の土をんだ。この悠久ゆうきゅうな山間の村里は、大方母が生れた頃も、今眼の前にあるような平和な景色をひろげていただろう。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
一国の名誉を悠久ゆうきゅうならしめるものは、武力でもなく政治でもない。その宗教や藝術や哲学のみである。もし信任し得る政治があるなら、それはプラトーンや孔子が説いた如き政治であらねばならぬ。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
あの悠久ゆうきゅうを象徴したような銀河に対して、はかない我が一生を思う。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
軒のつららのものういしずく悠久ゆうきゅうの悲しみを物語らせ、なべの中に溶け行く雪塊に運命の不思議を歌わせ、氷河の上に映る飛行機の影に山の高さを示揚させたりするのも他の例である。
映画時代 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
迦陵頻伽かりょうびんがの声ともきこえる山千禽やまちどりのチチとさえずるあした——根本中堂こんぽんちゅうどうのあたりから手をかざして、かすみの底の京洛みやこをながめると、そこには悠久ゆうきゅうとながれる加茂かもの一水が帯のように光っているだけで
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一国の名誉を悠久ゆうきゅうならしめるものは、武力でもなく政治でもない。その宗教や藝術や哲学のみである。もし信任し得る政治があるなら、それはプラトーンや孔子が説いた如き政治であらねばならぬ。
朝鮮の友に贈る書 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
ある悠久ゆうきゅうなるものが恐しい力を以て私達に迫っては来ないだろうか
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
悠久ゆうきゅうを思ひ銀河を仰ぐべし
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
悠久ゆうきゅうと水は行く——
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)