復讐心ふくしゅうしん)” の例文
戦勝者の持つ復讐心ふくしゅうしんや侵略思想を綺麗きれいさっぱりとなげうち、戦敗者の持つ自卑自屈とひがみとを一切捨て去って、愛と正義と自由と平等との中に
非人道的な講和条件 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
それが、彼の復讐心ふくしゅうしんに、快い刺激を与えたのは、もちろんである。が、それにつれて、彼はまた、ある名状しがたい心の疲労に、襲われた。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
おそろしい怖ろしい、低能児ていのうじでも復讐心ふくしゅうしんはあるもの。蛾次郎が、小石をつめこんだのは、れいの石投げのわざで、小判こばんかたきをとるつもりらしい。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
怒は復讐心ふくしゅうしんとして永続することができる。復讐心は憎みの形を取った怒である。しかし怒は永続する場合その純粋性を保つことが困難である。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
「ところがあの踏み絵を作った者の罪は、それを踏まない者の罪よりは重いんだそうだ。」復讐心ふくしゅうしんに燃えた目を横に向けながら与力はいった。
あの冷刻れいこくな愛子がおもてもそむけずにじっと姉の肉体が切りさいなまれるのを見続けながら、心の中で存分に復讐心ふくしゅうしんを満足するような事があったら。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
あいつは、へんな復讐心ふくしゅうしんを持っている。僕よりえらい。いや、僕にはよく判らない。——いや、ひょっとしたら、なんでもない俗な男なのかも知れん。
ダス・ゲマイネ (新字新仮名) / 太宰治(著)
成経 あなたは悪とたたかって難にあったわれわれをいたずらにみにく復讐心ふくしゅうしんを満たそうとして失敗したあわれむべき破産者におとしてしまおうとするのか。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
それに続いて大挙たいきょ、海底都市に侵入しようとしている。そしてトロ族の惨虐性ざんぎゃくせい復讐心ふくしゅうしんとが、言語に絶する暴行を演ずるであろうことは明白だ。この際だ。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ひそかにねらうもののために、彼は誰よりも勤勉に働き、誠実に店の利益を守った。それは彼の復讐心ふくしゅうしんをさらに強くしたが、周囲の信用を集める効果もあげた。
追いついた夢 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
妾にならておこうといったことのある、その男への復讐心ふくしゅうしんから来る興味もあったが、現在の自分等夫婦には、欠けているらしい或要求と歓楽とにあこがるる心とが
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
人々はその事実を語り合って、皆検事の巧妙さを讃嘆さんたんした。彼は嫉妬心を利用して、怒りの念によって真実を現わさせ、復讐心ふくしゅうしんから正義を引き出したのであると言われた。
太后の復讐心ふくしゅうしんに燃えておいでになることも面倒めんどうであったし、宮中への出入りにも不快な感を与える官辺のことも堪えられぬほど苦しくて、自分が現在の位置にいることは
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
つまり、ズルスケは復讐心ふくしゅうしんをおさえることができないで、アッカとそのむれに、こんなふうにして近づこうとしたことを、これから一生のあいだ、後悔こうかいしなければならないのです。
雪之丞の復讐心ふくしゅうしんに、弛緩ゆるみが来てはならぬとの、懸念からであるには相違なかった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
いや、そんな子供じみた復讐心ふくしゅうしんより、もっともっと深いたくらみがあるのかも知れぬが、頭の単純な庄造には相手の腹が見透せないだけに、変に薄気味が悪くもあれば、反感も募るのだった。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
だが、この男に、微塵みじん復讐心ふくしゅうしんの存するということを信ずる者はありません。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ぼくはそんな妻の復讐心ふくしゅうしんに自分の才能を無心に誇っては噛みつかれ、不用意に彼女を救ったとほのめかしただけでも爪をたてられ、一日として彼女を妻にしたことに悔いのなかった生活はなかった。
さようなら (新字新仮名) / 田中英光(著)
こう思うとせっかくの復讐心ふくしゅうしん一半いっぱんはくじかれてしまった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
そして彼に「手くびをつかまれて動けなかった」与力の復讐心ふくしゅうしんがその損をなお大きくした。
彼らはわしの武器を取り上げてしまったから、しかし死にきれなかった。わしは死にきれない自分を恥じた。しかし骨肉こつにくの愛と清盛に対する復讐心ふくしゅうしんとがわしを死にきれさせなかった。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
人の三倍も四倍も復讐心ふくしゅうしんの強い男なのであるから、また、そうなると人の五倍も六倍も残忍性を発揮してしまう男なのであるから、たちどころにその犬の頭蓋骨ずがいこつを、めちゃめちゃに粉砕ふんさい
彼の胸は、不図ふと、八幡宮境内けいだいで邂逅した、奇人孤軒先生のあの暗示多い言葉を聞いてから、日頃押えつけて来た、巨大な仇敵に対する復讐心ふくしゅうしんに、燃え立ちこがれ、動乱し始めているのだった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
憎んでも憎み足りない其の復讐心ふくしゅうしん
俘囚 (新字新仮名) / 海野十三(著)