従姉いとこ)” の例文
旧字:從姉
「峰花子といいます。別に特徴もありませんが、この右足湖うそくこを東に渡った湖口ここうに親類があって、そこの従姉いとこが死んだということでした」
人間灰 (新字新仮名) / 海野十三(著)
信仰のあついHさんの従姉いとこは、久しく肉の汚れに染められた聖堂のなかを、一まづ清掃してはどうかと司祭さんに提議したのでした。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
お絹の家の本家で、お絹たちの母の従姉いとこにあたる女であったが、ほかに身寄りがないので、お京のところで何かの用をしていた。
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お米といって、これはそのおじさん、辻町糸七——の従姉いとこで、一昨年おととし世を去ったお京の娘で、土地に老鋪しにせ塗師屋ぬしやなにがしの妻女である。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
秋作氏のそばには、ついこの夏、結婚したばかりの従姉いとこ槇子まきこしとやかに寄り添い、そのとなりに、長六閣下の白い毬栗頭どんぐりあたまが見えている。
予は姉には無造作むぞうさに答えたものの、奥の底にはなつかしい心持ちがないではない。お光さんは予には従姉いとこに当たる人の娘である。
紅黄録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
松次郎は従姉いとこのお妙に夢中だったのさ。折があったら竜吉を殺そうとねらっていたことだろう。殺して置いて、自殺と見せかけようとした。
あなたの従姉いとこが、その審美心と戸外運動と実務の才(というのは、実務的能力と家庭的専横性とを彼女は母親から受け継いでいますから)
このビール樽はお父さんの従姉いとこ配偶つれあいで、川島さんという若松の石炭商だった。お父さんは一同に然るべく紹介を済ませてから
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
伯父の養ひ子で、だから私には義理の従姉いとこに当るわけだつた。当時お産をして、故あつてその家に預けられて居たのだつた。
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
国府津の叔母さんのところには、従姉いとこの信子さんがいる。信子さんは、クルミさんより五つ年上の二十一で、この月の末にお嫁入りするのである。
香水紳士 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
浅田は段々考えてゆくうちに、妻の従姉いとこの山本京子というのが、二本榎に住んでいる事を思出した。もしやすると、そこへいったのかも知れない。
秘められたる挿話 (新字新仮名) / 松本泰(著)
その吉光御前というお方こそ、自分が主命をうけて、機会さえあれば世に出そうと苦心している鞍馬の稚子ちご遮那王しゃなおう従姉いとこにあたる人なのであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女は用心深く彼の視線をそらしつゝ何気ない世間話の中へ彼女の従姉いとこの不幸な結婚の話を細々こま/\と織り込んでいつた。
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
兄弟共通に知つてゐる女性では、他に適当の心当りがないので、差当り此の従姉いとこの娘をげてみたまでであつた。
曠日 (新字旧仮名) / 佐佐木茂索(著)
「あなたが、こつちへ来てゐるといふ事を、母はもう知つて、ぜひ逢ひたいから弘前へ寄こしてくれつて電話がありましたよ。」と従姉いとこが笑ひながら言つた。
津軽 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
これはヤアギチ夫人の従姉いとこで、もう三十を越した、顔色の悪い眉毛まゆげの濃い、鼻眼鏡の老嬢であるが、はげしい寒風のなかでも小休みもなく巻煙草まきたばこうのが癖で
とおばかりの従姉いとこと、私はだんまりで、二人ともこぼれない涙にが光っていた。おなじようにムンヅリしていたが、子供心にも思うことは違っていたのかもしれない。
従姉いとこの藤子とが私より四つ、五つ年上で、美しい娘として三味線や、琴や、手芸などを競って習い、揃いの着物を着たりして、絶えず美と芸との雰囲気を発散させていたことだ。
光り合ういのち (新字新仮名) / 倉田百三(著)
あるやまの従兄の家には僕の血を分けた従姉いとこが一人僕を待ち暮らしているはずだった。僕はごみごみした町の中をやっと四谷見附よつやみつけの停留所へ出、満員の電車に乗ることにした。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
従姉いとこの一人が慰めのために云った言葉を、私は舌打ちしながら睨み返してやりました。
消えた霊媒女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
そして一八三九年には従姉いとこエンマ・ウェジウッドと結婚し、その後一八四二年にダウンという土地に移り、ここに一八八二年四月十八日に逝去せいきょするまでの長い年月を平和に送りました。
チャールズ・ダーウィン (新字新仮名) / 石原純(著)
全然離れた家へはなやかに婿として迎えられることがどれだけ幸福だかしれません。従姉いとこの縁でいた結婚だというように取られて、源氏の大臣も不快にお思いになるかもしれませんよ。
源氏物語:21 乙女 (新字新仮名) / 紫式部(著)
殊に年上の従姉いとこの一人は、彼が年をとって伯父のようにならなければいいが、と、口癖のようにいっていた。その言葉が部分的には当っていることを、三造も認めないわけには行かなかった。
斗南先生 (新字新仮名) / 中島敦(著)
お房さんといふのは、私を初めて東京へつれて来てくれた私の従姉いとこである。
念仏の家 (新字旧仮名) / 小寺菊子(著)
お延が津田へ片づくや否や、すぐそのあとへ入る事のできた彼女は、従姉いとこのいなくなったのを、自分にとって大変な好都合こうつごうのように喜こんだ。お延はそれを知ってるので、わざと言葉をかけた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
継母のもと十年ととせを送り、今は姑のそばにやがて一年の経験を積める従姉いとこの底意を、ことごとくはくみかねし千鶴子、三つに組みたる髪の端を白きリボンもて結わえつつ、浪子の顔さしのぞきて
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
今日きょう、日曜日、生れてはじめて、従姉いとこのナネットはミサに遅れた。
約束の会は明日あしただし、すきなものは晩に食べさせる、と従姉いとこが言った。差当さしあたり何の用もない。何年にも幾日いくかにも、こんな暢気のんきな事は覚えぬ。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
従姉いとこの名前のために、そう考えたのも無理のないことですが、それにしても、今までに運んで来た、二十四本の恋文の始末をつけなければ
パリーに連れて来られると、もの静かなグラチアは、美しい従姉いとこのコレットが大好きになった。コレットは彼女を面白がった。
とりあへずお母さんとHさんは駿河台するがだい従姉いとこの家へ、のこる家族は駒込こまごめだかの親類の家に転がりこむことになりました。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
お島が下谷したやの方に独身で暮している、父親の従姉いとこにあたる伯母のところに、暫く体をあずけることになったのは、その夏も、もう盆過ぎであった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
大野の芳子さんというのは僕の従姉いとこだ。ピアノの先生として二つの女学校に勤めている上に、一週一回社長邸へ来て令嬢に教える。僕が推薦したのだ。
人生正会員 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
私は従姉いとこをたずねていって、暗澹あんたんたる有様に胸をうたれて途方にくれたことがある。これが、あのはなやかに、あでやかに見える、左褄ひだりづまをとるひとせびらに負う影かと——
なるほど、それは、遮那王の身にも、彼の従姉いとこにも、無事な世渡りにちがいない。だが、そうして、源家のわずかな血脈が、一身の安立ばかり願っていたら、源氏はどうなる。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僕は夢に従姉いとこの子供と、三越みつこしの二階を歩いてゐた。すると書籍部とふだを出した台に、Quarto 版の本が一冊出てゐた。誰の本かと思つたら、それがもり先生の「かげ草」だつた。
本の事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
私は母や叔母や姉やら従姉いとこやらその他なんだか多勢で、浅虫温泉の旅館で遊び暮した事があって、その時、一番下のおしゃれな兄が、東京からやって来て、しばらく私たちと一緒に滞在し
『井伏鱒二選集』後記 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「そうですの? じゃ、折角ですから、あたしの使ってしまった、あの香水を買っていただきましょうか? だってあたし、あの品を、従姉いとこの信子さんに、お贈りするつもりだったんですもの」
香水紳士 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
従姉いとこということは事実だからいいでしょう。そのほかのことは何も
源氏物語:30 藤袴 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「この小僧め」——年を取った従姉いとこは、厳かな調子で
「お前は継子の従姉いとこじゃないか」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「いいえ、あれは従姉いとこの名よ」
キャラコさん:03 蘆と木笛 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
多少荒っぽい笑い方をします。調子はいっそう粗野に生硬になっています。あなたの従姉いとこは時とすると、無作法なことを平気で口にしています。
以前にも両三度聞いた——かれの帰省談の中の同伴つれは、その容色きりょうよしの従姉いとこなのであるが、従妹はあいにく京の本山へ参詣おまいりの留守で、いま一所なのは
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
北山も江古田で一軒世帯を作って、に精進していたし、瑠美子は最近往来の道が開けて来た、郊外の従姉いとこの家へ、ずっと預けっ放しになっていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
相手は従姉いとこで年が一つ上だった。子供の時から仲が好かった。本家と分家だから、始終往き来をしていた。
善根鈍根 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
遮那王しゃなおう様のお従姉いとこがいらせられて、いつも、鞍馬へのおことづてを聞いてゆくのだ」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
従姉いとこ瓦斯ガス暖炉の前に坐ったまま、アストラカンの帽をおもちゃにしていた。僕は正直に白状すれば、従兄の弟と話しながら、この帽のことばかり気にしていた。火の中にでも落されてはたまらない。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
夏痩は、たつくちといふ温泉の、叔母の家で、従姉いとこの処へわきから包ものがとゞいた。其上包になつて読売新聞が一枚。
いろ扱ひ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)