引掛ひっかか)” の例文
私の両親は食事しながら笑ったりおしゃべりなどすると、これ、あばらへ御飯が引掛ひっかかりますといってしかった事を私は今に覚えている。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
どうしたんだって聞くと、裏のうちへ背戸口から入った炭屋の穿はきかえたのが、雪が解けて、引掛ひっかかったんじゃあない……乗ってるんだって——
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なにしろ一万数千トンもある巨船が、海抜五千米のヘルナー山頂へ引掛ひっかかっていることをどう説明したらいいか、途方にくれたのはあたまえであった。
地球発狂事件 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
心の中に、何か、ある、解けそうで解けないものが引掛ひっかかっているような風である。
木乃伊 (新字新仮名) / 中島敦(著)
雑魚ざこぴきかからない、万一や網でも損じてはいぬかと、調べてみたがそうでも無い、只管ひたすら不思議に思って水面みなも見詰みつめていると、何やら大きな魚がドサリと網へ引掛ひっかかった、そのひびき却々なかなか尋常でなかった
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
谷へ出た松の枝に、まるで、一軒家の背戸のその二人をにらむよう、かっまなこみひらいて、紫の緒で、真面まむき引掛ひっかかっていたのです。……
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
盲目聾めくらつんぼで気にはしないが、ちと商売人の端くれで、いささか心得のある対手あいてだと、トンと一つ打たれただけで、もう声が引掛ひっかかって、節が不状ぶざま蹴躓けつまずく。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
持崩した身は、雨にたたかれたわらのようになって、どこかの溝へ引掛ひっかかり、くさり抜いた、しょびたれで、昼間は見っともなくて長屋居廻いまわりへ顔も出せない。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この大剪刀おおばさみが、もし空の樹の枝へでも引掛ひっかかっていたのだと、うっかり手にはしなかったろう。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
引掛ひっかかりそうに便たよりなくひびきが切れて光景ありさまなれば、のべの蝴蝶ちょうちょうが飛びそうななまめかしさは無く、荒廃したる不夜城の壁の崩れから、菜畠になった部屋が露出むきだしで、怪しげな朧月おぼろづきめく。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一輪紅椿が引掛ひっかかった——続いて三ツ四ツ、くるりと廻るうちに七ツ十ウ……たちまちくるくると緋色にかさなると、直ぐ次の、また次の車へもおなじように引搦ひっからまって、廻りながら累るのが
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
相合傘でいた私に寄越よこして「ちょっと骨が折れました、遠い引掛ひっかかりなんですがね……つんぼ中風症よいよいのお婆さんが一人留守をしているんだもの、驚きましたわ。」「驚いた。」と八さんが言うから
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……また何も、ここへ友達を引張ひっぱり出して、それにかずけるのは卑怯ひきょうですが、二月ばかり前でした。あなたなぞの前では、お話もいかがわしい悪場所の、それも獣の巣のような処へ引掛ひっかかったんです。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
仕丁 はあ、皆様、奴凧やっこだこ引掛ひっかかるでござりましょうで。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひょろりとして引掛ひっかかったね。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)