安閑あんかん)” の例文
夫が妻の辛苦を余処よそに見て安閑あんかんたるこそ人倫の罪にして恥ず可きのみならず、其表面を装うが如きは勇気なき痴漢バカモノと言う可し。
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「議論か。いや、議論ずきは大いにしゃべり合っているがいい。この方は、安閑あんかんと、こうしてはおられぬ。——おさきへ御免」
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いや、ぼくの身になってください、ぼくはじっとしていられないんです、兄さんにだけ危険をおしつけて、弟がどうして安閑あんかんとできましょう。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
安閑あんかんとしていたのですが、登ってくる土人は、だんだんと近づいて来ますから、それにつれて自分もだんだん、上へ上へとのぼって行きました。
椰子蟹 (新字新仮名) / 宮原晃一郎(著)
兵馬は茫々然としてその夜は長禅寺へ帰ったけれど、こうなってみると、ここにも安閑あんかんとしてはいられないのであります。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そのおあとには、継体けいたい安閑あんかん宣化せんか欽明きんめい敏達びたつ用明ようめい崇峻すしゅん推古すいこ諸天皇しょてんのうがつぎつぎにお位におのぼりになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
水中に浮かべる微細な藻類そうるいをおのれの口のほうへ送ろうとつとめていて、決して一匹として働かずに、安閑あんかんとして他の厄介となっている者はない。
理想的団体生活 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
私は急ぎの用をかかえているからだだから、こうして安閑あんかんとしてはいられない。なんとこの小僧に頼んで、一匹の馬でってもらおうじゃございませんか。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
竜田たつただの唐錦からにしきだのと名を附けて、朝夕その頭数を勘定しているような世中よのなかになっては、もうカワセミも安閑あんかんとして、ヒイーなどとは啼いてはいられないのである。
るべし何れにも師父の大病と聞ては片時へんじ安閑あんかんとして居る場合にあらざればかく高弟衆かうていしう代稽古だいげいこ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
政雄はその日からばかのようになって雑貨店の二階に寝ていたが、十日位してやっと精神が平常もとふくして来た。精神が平常もとに復して来ると安閑あんかんとしてはいられなかった。
女の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
と思うと、首領格の畑柳にして見れば、七年の間、監房に安閑あんかんとしてはいられない訳です。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「それじゃ私も辞表を出しましょう。堀田君一人辞職させて、私が安閑あんかんとして、留まっていられると思っていらっしゃるかも知れないが、私にはそんな不人情な事は出来ません」
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
安閑あんかんと宿屋へ尻を据ゑてもゐられないから、その日の暮方くれがたその紳士と三人で、高崎の停車場までくだつて来たが、さて停車場へ来てみると、我々の財布には上野までの汽車賃さへ残つてゐない。
忘れられぬ印象 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
に来るもの——それを考えると彼は安閑あんかんとしていられなかった。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
なよたけのことを思うと、夜なぞ安閑あんかんと眠っておられんからな。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
もとよりこの人々でも、日常に安閑あんかんと平和な欠伸あくびを催すような日は無かったのである。毎日が、毎夜が——緊張しきった警固の中の生活だった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこへ、べにだか白だか要領を得ぬ花が安閑あんかんと咲く。やわらかい葉さえちらちら着ける。評して見ると木瓜は花のうちで、おろかにしてさとったものであろう。世間にはせつを守ると云う人がある。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
日頃探偵狂の橘が、こんな事件にぶッつかって安閑あんかんとしている筈がない。
火縄銃 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
して何になりとも有付ありつかせんと思へども新藤夫婦とも此程病氣つき永々なが/\わづらひしが六十日程立て漸々やう/\快氣こゝろよくなりしかば新藤に向ひ偖御前樣方は何迄いつまで只々たゞ/\安閑あんかんとしてはられまじ殊に此程の御病氣にてあづかりの金も多分御遣ひ成れしかばまづ何道どのみちなりと世帶しよたい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
昨今、京都の上下は恟々きょうきょうと万一の憂いにおびえ出しており、それに第一、執事の高ノ師直もろなおなどが、決して、尊氏を安閑あんかんとはさせておかなかった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それに、本当の自分が、安閑あんかんと立ってなぞいられないのです。
目羅博士の不思議な犯罪 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それを思うても眠られぬし、また、日陰ひかげてきのいましめをうけておわす、大殿おおとののご心中しんちゅうを思うても、なかなか安閑あんかんとねている場合ではございませぬ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
良人おっとたるお奉行が、今日、苦熱の釜の中で煮られるような立場にあるのに、妻として、安閑あんかんとしていられないのは当然じゃ。女の力の及ばぬ世界のことだけに」
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『ばかな事をする男よ。たとえ、原封げんぽう五万六千石、そのまま、御舎弟へ下し置かれるとあっても、上野介をあの儘において、大学様が安閑あんかんと家名をついで居れようか』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ふーむ、成程、厄介な筋だな。それじゃお前さんも、安閑あんかんと跡目願いも出されまい」
醤油仏 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
父の信玄がい後も、この三年間、彼は一日だに、安閑あんかんとしてはいなかった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ではお別れといたそう。拙僧せっそうとて、安閑あんかんとしておられる身ではありません」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『病気? 病気が何か。そちたちは、赤穂浪人のために、吉良の邸や上杉家の面目を、土足でにじられても、この弾正大弼が安閑あんかんと寝て居さえすれば、それでやまいにさわらぬと思っているのかッ』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
師直はその閉門中もただ安閑あんかんとしていたわけではなかったのだ。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何で、わしが安閑あんかんとしていてよいものか
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「せっかくですが、お国存亡のとき、安閑あんかんと謹慎はしておられません。どうか日頃の御賢明に返って、お考え直し下さい。……今、降伏すれば、まだ土佐一国と、長曾我部家は残ります。しかし、最後のところまで戦ってしまったら、何が残りましょう」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)