あざ)” の例文
方々探したが、アドレスにあるあざがなかなか見当らない。散々「農村地域」を歩き廻って、最後に出たのが、阪急の雲雀丘であった。
鳥井さんのことなど (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
たった一つの名で漠然と呼ばれていた広野でも、家が建ち小路が通れば曲り目ごとに、小さな区劃ごとにあざというものが入用になる。
和州地名談 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
佐分さんはその爺やから薪といふのはあざ名であることを教はり、一休さんがお見えになる前、七百年前には荒寺であることを聞かされた。
京洛日記 (旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
すすむこと一里半にしてきふ暖気だんきかんず、俯視ふしすれば磧礫間温泉おんせんありて数ヶ所にづ、衆皆くわいぶ、此処はあざはな或は清水沢しみづさはと称し
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
「ふむ、ふむ。——どなたでしたかね。お名前は?——ふむ、ふむ。——住所は? いや、あざはどこでしたかな——ふむ、ふむ」
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
窪垣内くぼかいとと云うあざへ行って見ると、そこには「昆布」の姓が非常に多いので、目的の家を捜し出すのになかなからちが明かなかった。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
管轄は大野木村に属してあざ佐久間新田と呼ばれているが、これが一区画をなして、平戸から来ている石橋氏の、開墾農民団なのだという。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
極めて緩くうねをうっているこの平地に幾つかの小さいあざがあります。字々の部落は立木に囲まれながら処々に塊まっています。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
あざ滝の上というところにかかれる折しも、真昼近き日の光りはげしく熱さ堪えがたければ、清水を尋ねて辛くも道の右の巌陰に石井を得たり。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その一つは端書はがきで「今朝ハ失敬、今日午後四時頃夏目来訪只今(九時)帰申候。寓所ハ牛込矢来町やらいちょう三番地あざ中ノ丸丙六〇号」
子規自筆の根岸地図 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
何峠から以西いせい、何川辺までの、何町、何村、あざ何の何という処々しょしょの家の、種々の雑談に一つ新しい興味ある問題が加わった。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
あざ蓮池という所は、伊勢山から紅葉坂の反対側の方を西へだらだら降りて行って、中途から狭い横道をまた右へ降りきった一劃の窪地であった。
あざ地 金井沢。至仏。笠ヶ岳。大烏帽子。小烏帽子。八海山。景鶴山。中ノ原。中ノ沢。大成木。稷小屋。鬱墓前。中ノ岐。船ヶ原。粘沢。車沢。
尾瀬の昔と今 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
まして、日の短い秋であるから、まだ三時というのに、もう黄昏たそがれのようだ。部落の名は、広島県ひろしまけん比婆郡ひばぐん峯田村みねたむらあざみね
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
余のあざには、二三年来二十七戸の内で馬を飼う家が三軒出来た。内二軒は男の子が不足なので、東京からの下肥しもごえひきに馬を飼う事を思い立ったのである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
田舎の村落に行くと根神の家(すなわち根所)が一あざに一カ所(?)あるが、昔は村の真中にあってそれを中心として家族的の村が出来たようであります。
ユタの歴史的研究 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
暗い杉の木立の側を通り、澤を越して行きますと、あざ峠と言つて一部落を成したところがあります。その邊まで私達に附いて來て名殘を惜む人もありました。
道の傍らには小さなあざがあって、そこから射して来る光が、道の上に押しかぶさった竹藪たけやぶを白く光らせている。竹というものは樹木のなかで最も光に感じやすい。
闇の絵巻 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
水の涌くところに荒神様が鎮座しているから、荒神様の浴びる風呂という意味だろう。僕の家ばかりでない。その辺の十数軒が荒神風呂というあざになっている。
ある温泉の由来 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
あざの中央、観音寺山城の鬼門にあたると伝えられているところに、小堂宇がある。一人の老尼が守っている。春秋の彼岸会に、地獄極楽の絵がその堂内に掛けられる。
澪標 (新字新仮名) / 外村繁(著)
村といっても当時は今のあざ、もしくは部落に当るのがそれだから、山間の小さな部落という部落に例外なく道場があって、村々の男という男がみんな剣を使ったのである。
花咲ける石 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
伊予宇摩郡金生村、星川宇四郎氏の実験談なりというを聞くに、同氏が夜中、隣村川之江あざ井地某方より帰路、数十歩前において人語がする。近づき見るに人影だもない。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
そこらの人間に心当りをいって問い問い元気を出して向うの山裾やますその小山のあざまで探ねて往った。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
この幻境の名は川口村あざ森下もりした、訪ふ人あらば俳号龍子りゆうしと尋ねて、我が老畸人を音づれよかし。
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
しるさんに去る×月×日午後十一時頃×県×郡×村あざ×所在×の寺男×某(五〇)が同寺住職のいいつけにて附近のだん使つかいに行き帰途同寺けいだいの墓地を通過せる折柄おりから雲間を
百面相役者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
我家わがいえは北海道十勝国とかちのくに中川ごおり本別村ぽんべつむらあざ斗満の僻地に牧塲を設置し、塲内に農家を移し、力行りょっこう自ら持し、仁愛人を助くることを特色とし、永遠の基礎を確定したる農牧村落を興し
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
どう言ふ訣か、解説に苦しむ事柄である。此海神の子孫が、現在あざをなして残つて居る。
琉球の宗教 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
長者が馬籠まごめ峠の小路に掛かり、あざ男垂おたるという所まで来た時、三賊出でて竹槍で突き殺し、宝を奪い去った。その宝の中に黄金の鶏が一つ落ちて、川に流れて男垂の滝壺に入った。
今年の正月から清武村あざ中野に藩の学問所が立つことになって、工事の最中である。
安井夫人 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ザシキワラシ。二十二さい。アツレキ三十一年二月七日、表、日本岩手県上閉伊かみへい青笹あおざさあざ瀬戸二十一番戸伊藤万太の宅、八畳座敷中に故なくしてほしいままに出現して万太の長男千太、八歳を
ちょうどこの竜神村のあざの数と同じことになる、そうして、この湯本ゆもとの竜王社には王の中の王たる難陀竜王を祀ってある、野垣内のがい、湯の野、大熊、殿垣内とのがい、小森、五百原いおはら高水こうすいの七所に
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
私の生家は長沢尻というところにあり、無人は傍若無人の無人だ、今は亡き友人の一人が、私の生家の小あざまで知っており、長鞘尻の親分などとからかったハガキをくれて、私を困らせたことがある。
あざ全部の子供たちは聲をはりあげて
田舎の新春 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
しかし私が生まれた頃は、北陸の片田舎の小さい部落であった。村ともいえないところで、本当の地名は、作見さくみあざ片山津小字砂走すなわせである。
私の生まれた家 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
それがほぼ今日の市町村の大字おおあざとなっている。大字を区分したものがあざであるが、これが以前よりはるかに少なくなっている。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「三階の十九号室。——そこに、相沢町あざ和蘭陀おらんだ横丁の千坂桐代っていう人がはいっているだろう。盲目で、女の……」
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぜんたい私共の村は高野山の南三里ばかりの山奥にあって、私のあざは一方が山で一方が谷になったゆるやかな傾斜面のところどころに家がチラホラ建っている。
紀伊国狐憑漆掻語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
千歳村は以上三のあざの外、船橋ふなばし廻沢めぐりさわ八幡山はちまんやま烏山からすやま給田きゅうでんの五字を有ち、最後の二つは甲州街道にい、余は何れも街道の南北一里余の間にあり、粕谷が丁度中央で
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
先年、丹後国たんごのくに中郡三重村あざ谷内、本城某は幼少のとき、かたつむりを多く捕らえて食せし由なるが、あるとき過って左手の人さし指を傷つけ、ついにそのつめぬけてしまった。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
何万エーカーとか、何十万エーカーとかいいましたけれど、そんな莫大ばくだいな数量は忘れてしまいました。ともかく、東水の尾というこのあざだけは、全部父親の物だというのです。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
金を出したのはやっぱり南山城の大河原あざ童仙房どうせんぼうというところの藤村利平という人間であって、その人間が、自分の事務に携わっている室町竹屋町の法律事務所にわざわざ訪ねて来て
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
あざは今も湖の所在地に冠しあれば、其地域の昔と異ならざるを察す可く、唯湖名と地名と孰れが主にして孰れが従なるやを知る能わざるも、恐らく湖名直に地名となりしものなる可し。
古図の信じ得可き程度 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
同じあざだけれど、東金君は上で、僕の方は下だ。うちが離れているから遊ばない。しかし小学校へ入ったら、僕と東金君が一緒の机に並んだ。他の子供達よりも東金君は遙かにい子だった。
村一番早慶戦 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
その屋敷跡には代官屋敷の地名も残ったが、尾張藩への遠慮から、享保きょうほう九年の検地の時以来、代官屋敷のあざを石屋に改めたともいう。その辺は岩石の間で、付近に大きな岩があったからで。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
馬車の出発した、この部落の名は、愛媛県えひめけん温泉郡おんせんぐん潮見村しおみむらあざ吉藤よしふじ
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
十勝国とかちのくに中川郡なかがわぐん本別村ぽんべつむらあざ斗満とまむ
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
その他に東京、京都のごとき大市街の町の数が約一万ある。右の十九万の町村大字はすなわち以前の村であって、さらにこれがあざに別れている。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「貴様、署では言ッたじゃないか。——相沢町あざ和蘭陀おらんだ横丁、俗称イロハ長屋、千坂桐代長男——そうだな」
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
駿東すんとう郡大岡村あざ中沢田の佐藤長右衛門方に、今より十一年前より飼いおる熊猫あり。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
「……東彼杵ひがしそのぎ郡、東戸松村、あざ白上、津田まさ長女二歳……これだ! たしかにわたしのところへきている。……わたしが赤ちゃんの手当をしてあげているが……この津田まさという人は?」
亡霊怪猫屋敷 (新字新仮名) / 橘外男(著)