四足よつあし)” の例文
やがて意地汚いじきたな野良犬のらいぬが来てめよう。這奴しゃつ四足よつあしめに瀬踏せぶみをさせて、いと成つて、其のあと取蒐とりかからう。くいものが、悪いかして。あぶらのない人間だ。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
遂には真実に淫逸な四足よつあし獣の悩ましい悲念に帰つてゆくのではないかとさへ思はれる位、霧は怪しくふりそそいでくる。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
うす暗い行燈あんどうの光りでよく視ると、それは黄いろい張子の虎で、お駒の他愛ない寝顔を見つめているように短い四足よつあしをそろえて行儀よく立っていた。
半七捕物帳:31 張子の虎 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
六の宮へ行つて見ると、昔あつた四足よつあしの門も、檜皮葺ひはだぶきの寝殿やたいも、ことごとく今はなくなつてゐた。その中に唯残つてゐるのは、崩れ残りの築土ついぢだけだつた。
六の宮の姫君 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
釜の周囲には心臓や肝臓や、眼球や四足よつあしや耳やそういうものを切られたりえぐられたりした、犬や狐やまみの死骸が、とりちらされたり積まれたりしてあった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いままで腹這はらばひてゐたりしが、身を起して、背をくぼめ、四足よつあしを伸ばし、栗箱に鼻さし入れつ。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
それが何であるか、人間か動物か、一目見では誰も分らなかつた。まるで四足よつあしひまはつてゐるやうに見えて、何か怪しい野獸やじうのやうに、引掻いたり唸つたりしてゐた。
運動会がおこなわれるときには、シカやウサギやキツネをはじめ、ありとあらゆる四足よつあしのケモノが、人間に見つからないように、まえのばんのうちに、そっとクッラベルイへやってきます。
お宅のは勃然むっくり起きましてな、キリキリと二三遍廻って、パタリと倒れると、仰向きになってこう四足よつあしを突張りましてな、尻尾でバタバタ地面ちべたを叩いたのは、あれは大方くるしがったんでしょうが
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
狐は、それはそれは威張いばりくさって、猫を、あたまのてっぺんから四足よつあしのさきまで、じろじろながめているだけで、なんとか返答へんとうをしてやったものかどうか、しばらくは見当けんとうがつきませんでした。
四足よつあしの爪を土に食い入るように踏ん張って、耳を立て眼をいからせて、しきりにすさまじい唸り声をあげていた。
木曽の旅人 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
這奴しゃつ四足よつあしめに瀬踏せぶみをさせて、いとなって、その後で取蒐とりかかろう。食ものが、悪いかして。脂のない人間だ。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
眼をふさぎ、呼吸いきをころしてひそみたるに、四足よつあしのものの歩むけはいして、社の前を横ぎりたり。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこらの畑道には大きい四足よつあしの跡が残っていた。
馬妖記 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
眼をふさぎ、呼吸いきをころしてひそみたるに、四足よつあしのものの歩むけはひして、社の前を横ぎりたり。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「まだそればかりじゃあねえ。垣根の近所には四足よつあしのあとが付いていた。と云ったら、犬や猫のようなものは幾らも其処らにうろついているというだろうが、おれはちっと思い当ることがあるから、こうして大事に持って来たんだ」
半七捕物帳:23 鬼娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
天井には犬張子いぬはりこの、見事大きなのが四足よつあしをぶら下げて動きもせず、一体りッ放しのおきゃんで、自転車に乗りたがっても、人形などは持ってもみようと思わないたちであったのが
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
場所ばしよところへつゝ、守宮やもりかたちで、天窓あたまにすぽりとなにかぶつた、あだじろい、どうながい、四足よつあしうねるものが、ぴつたりと附着くツついたり、ことりとまるくなつたり、長々なが/\ふのがえたり……やがて
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)