おくび)” の例文
ただ先方はどこまでも下手したでに出る手段を主眼としているらしく見えた。不穏の言葉は無論、強請ゆすりがましい様子はおくびにも出さなかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私は先ず胸を撫で降ろし自分の空腹は仕方がないのでおくびにも出さず、再び一郎の手を引くと、音痴な声を張上げ、「箱根の山は天下の険」
箱根の山 (新字新仮名) / 田中英光(著)
自分の専門のことなぞはおくびにも出さないで、馬だの骨牌だのと一緒に、よく料理の事をいっぱし通のような口振で話したものだ。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
つい今日までおくびにも出さずにいたが、何で武大さんが急に死んでしまったのやら、その辺のことはさッぱり知らない——と、いうのであった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おもむろに後図こうとを策しても晩くはないと云ふ腹なので、中々あきらめてはゐないのだつたが、でもそんなことは、無論塚本に対してもおくびにも出しはしなかつた。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そこでそんな顏馴染の住人達のことは彼女にはおくびにも出さないで、彼はずんずんその家のなかにはひつていつて、すました顏をしてヴェランダに腰を下ろした。
巣立ち (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
それで二度までも雁坂越をしようとした事はあったのであるが、今日までおくびにも出さずにいたのであった。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
で、終局しまいに只ほんのて貰えばいように言って、雑誌へ周旋を頼む事はおくびにも出さないで、持って行った短篇を置いて、下宿へ帰って来てから、又下らん奴だと思った。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
さていよいよ駒を生んでより馬ども耳を垂れてくさめおくびにも声せず、商主かの牝馬飛んだものを生んでわが群馬を煩わすとにくむ事大方ならず、いつもこれに乗りき食物を与えず。
平素彼は彼女の前でおくびにも出したことのない子供の名を假令たとひ夢であるにしても呼んだとしたら、彼女はどんなに苦しみ出したかしれなかつた。彼は息をいて安堵の胸を撫でた。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
かれはハヾトフが昨日きのふことおくびにもさず、にもけてゐぬやうな樣子やうすて、心中しんちゆう一方ひとかたならず感謝かんしやした。這麼非文明的こんなひぶんめいてき人間にんげんから、かゝ思遣おもひやりをけやうとは、まつた意外いぐわいつたので。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
森成さんの御蔭おかげでこの苦しみがだいぶ退いた時ですら、動くたびに腥いおくびは常に鼻をつらぬいた。血は絶えず腸に向って流れていたのである。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あれを陽なたに出せば、奸策かんさく歴然ですから、いかに高家たりとも文句はおくびにも出せないはずと、てまえは固く信じまする
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おもむろに後図こうとを策してもおそくはないと云ふ腹なので、中々あきらめてはゐないのだつたが、でもそんなことは、無論塚本に対してもおくびにも出しはしなかつた。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
かれはハバトフが昨日きのうのことはおくびにもさず、かつにもけていぬような様子ようすて、心中しんちゅう一方ひとかたならず感謝かんしゃした。こんな非文明的ひぶんめいてき人間にんげんから、かかる思遣おもいやりをけようとは、まった意外いがいであったので。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
坐禅をしてひざの関節を痛くしている事や、考えるためにますます神経衰弱がはげしくなりそうな事は、おくびにも出さなかった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こわがって、おくびにも公然とは口に出しません。そうだ、ご存知もありますまいが、果物売りの鄆哥うんかッていう小僧に、なおよくお訊きなすってごらんなさい
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おもむろに後図こうとを策してもおそくはないと云う腹なので、中々あきらめてはいないのだったが、でもそんなことは、無論塚本に対してもおくびにも出しはしなかった。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
叔父は明日あした金をやると云って、僕の家族を姉の所へ転居させたのですが、越してしまったら、金の事はおくびにも出さないので、僕は帰る宅さえなくなりました。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一と先ずあらましを云ってやって、日を置いてからと云う気になったのは、不意に老人を驚かすことのいかにも忍び難いのと、ついこの間も一緒に呑気のんきな旅をしながらおくびにも出さずにいたことを
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しかし彼はもう先達せんだっての掛物についてはまるで忘れているかの如くに見えた。李鴻章りこうしょうの李の字も口にしなかった。復籍の事はなお更であった。おくびにさえ出す様子を見せなかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
例の如く、「金が欲しい、飲みたいなあ」と云う言葉が三人の鼻先に恐ろしい程明瞭にブラ下って居たが、誰もそんな事はおくびと一緒に噛み殺し、何食わぬ顔でたわいもない冗談ばかり云い合って居た。
The Affair of Two Watches (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
おくびにもさなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)