しゃ)” の例文
夫人は、心の中に抑えに抑えていた女性としての平生の鬱憤うっぷんを、一時に晴してしまうように、烈しくほとばしる火花のようにしゃべり続けた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ああ、お母さん、ごめんなさい。悲しい顔をなさらないで下さい。私は少し調子に乗っておしゃべりをしてしまいましたね。ばかですね。
聖アンデルセン (新字新仮名) / 小山清(著)
駄賃が少し余計にはいったりなんかすると、すぐ酒をひっかけて来る。そんなときは何時いつもの無口屋が、とてものおしゃべりになってしまう。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
何か偉そうなことをうっかりしゃべってしまって、その議論が自分自身でも明日はすっかり変ってしまうようなことが無いとも限らない。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
東軍と西軍との敵味方であった武蔵とはひどく話にが入って、主人側もおもしろげにしゃべり出し、武蔵も興に入って話にける。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
由「吉川屋よしかわやてえ料理屋は此処でげす、昨夜ゆうべの女にのべつにしゃられたので私ア胸が一杯に成りました……さア這入りましょう」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
口の先きでしゃべる我々はその底力そこぢからのある音声を聞くと、自分の饒舌じょうぜつが如何にも薄ッぺらで目方がないのを恥かしく思った。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
うかつにしゃべっては大変なことになるので、折枝さんは大野君の外には誰にもそれを云わないで死んでしまったのです。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「今日牡丹ちゃん呼んであげるわ。余計なことしゃべらないことよ、そしてちゃかちゃかしないで落ち着いているのよ。」
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
或る時、二人は自慢の鼻突き合せてしゃべり争った末、それでは実際の成績の上で証拠を見せ合おうという事になった。
愚かな男の話 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それどころじゃない、あの男はただでさえ随分にくほうなんだから、そんな事をむやみにしゃべろうものなら、すぐ帰ってくれぐらい云い兼ねないですよ。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けれども子規氏の宅の俳句会は勿論、蕪村の輪講など催す時は私は必ず出席して、一番におしゃべりをしていた。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
ねえ、これからさきは、この子の前ではうっかり真実ほんとうのことは言えないよ、何でもでもしゃべるんだから……
やかましいしゃれものだ。派手な空色の上衣を着こんで、白い下着をつけ、叫び、しゃべり、お辞儀をし、ぴょいと跳ね、頭を下げ、森の歌い手たちみんなと仲のよいような振りをしている。
私には宗教の慰藉いしゃなどよりも大いなる慰藉になるので、一も二もなくその会話の渦中に投じて、しゃべったり、笑ったり、鏡のなかへ死骸のように青くゆがんで映った人の顔にふざけたりしたので、三
と宗匠は相変らず能くしゃべった。
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
勢いあまってしゃべってしまったものの、鷲尾はとっつきないような気持でさかずきをとりあげたが、酒はすっかり冷えていてニガかった。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
彼は、身体が激昂のために、わなゝこうとするのをやっと、抑えながらしゃべった。が、その声は変に咽喉にからんでしまった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
銀子は胸に滞っている当面の問題については、何にも話ができず、責任がまた一つえでもしたような感じで、母のおしゃべりにまかれて家を出た。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「……ああ、いけねえ。すこししゃべり過ぎの飲み過ぎとござった。お客さん、ごめんなさいよ。どうか、ごゆっくりと」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
浩一が婦人の前で、何でもしゃべれるのは、そういう同類感を、彼の方でも直覚していたからだ。
女妖:01 前篇 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
演壇または青天井の下で山犬のように吠立ほえたって憲政擁護を叫ぶ熱弁、もしくは建板たていたに水を流すようにあるいは油紙に火をけたようにペラペラしゃべり立てる達弁ではなかったが
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
このあいだからの一件を、こいつの口からべらべらしゃべられては大変である。
腰掛の間の汚れたところへ新聞紙を敷いて座っている鷲尾は、大工の妹婿が餞別せんべつした小瓶こびんの酒を飲みながら、ひとり合点にしゃべった。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
信一郎は、自分が有頂天になって、しゃべった文学論が、こうした人にって、批判される結果になったかと思うと、可なりイヤなはずかしい気がした。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
母は、口達者で、良人おっとの忠盛からいわせると——油紙に火がついたようによくしゃべる女——なのである。
一つは身も心も疲れていたせいもあるが、一つは早く帰って真実に直面するのが恐しく、自然歩みがのろくなったのだ。そして、何かしゃべらなくては淋しくてたまらなかった。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
こんなとき自分の理解を、聴き手の知識程度まで調節して話すことにれている鷲尾であったが、今夜はひどく主観的に相手構わずしゃべっていた。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
「だいぶ、いらざるおしゃべりをして、おもてなしにあずかった。……縫殿介ぬい、ぼつぼつおいとましようか」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
食堂の湯沸かし婆さんが、眼を赤くしながら、みんなにしゃべっていた。恰度ちょうど、ベルが鳴りはじめた。
工場新聞 (新字新仮名) / 徳永直(著)
『お屋敷のためにならないような事を、しゃべッたところで、何も徳のゆくわけじゃなし……』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お近婆さんは、地獄の率土そっとばばみたいに、骨と皮ばかりの青い顔を、ひっつらせながしゃべった。
あまり者 (新字新仮名) / 徳永直(著)
……これも一のうのある男。殺すのはもったいない。といって、生かしておけば、ここで見られた俺たち二人の所業しわざから落ち行く先まで世間へむかってしゃべられるおそれもある。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「われらには一トことの愛想もいわず、そのくせお二た方へは、よくペチャクチャしゃべッておりましたな。矢矧の長者の娘とかいっていたが、なあ八郎太、あれや遊女ではなかろうか」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
松本がいうと、葉撰部のおげにしたまだ子供子供した一人が、早口でしゃべった。
工場新聞 (新字新仮名) / 徳永直(著)
「ぺちゃぺちゃ、くだらないおしゃべりをしていないで、三味線でも持っておいで」
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どうだい、遠慮なくしゃべろうじゃないか、活動写真の批評は、どうだね?」
工場新聞 (新字新仮名) / 徳永直(著)