名利みょうり)” の例文
何年か後、この大次郎の名利みょうりの力と、佐助の金力と、利七——女のちからとで、煩悩の怪物出羽を仕留めようとの策謀なのだった。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
名利みょうり恋々れんれんたるのではないが、彼も一族の族長だ。乱世らんせ権化ごんげみたいな熱血そのもののやからも多くかかえている。弟正季まさすえがしかりである。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「まことに仰せの通りでございます。私が山林に行って閑居を願う心は永く名利みょうりの望みを止めて静かに仏法を修業しようとの為でございます」
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
理性がようやくその機能の蠕動ぜんどうをもって自覚の徴候を示すようになって来たのである。しかしとんぼの代りに名利みょうりを釣る。世間の誰しもがそういう考になる。
だ東京の奴等やつらを言ったのサ、名利みょうり汲々きゅうきゅうとしているその醜態ざまは何だ! 馬鹿野郎! 乃公おれを見ろ! という心持サ」と上村もまた真面目で註解ちゅうかいを加えた。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
だいつうじて寡作かさくでありましたうえに、名利みょうりというようなことは、すこしもかんがえなかったひとでしたから、べつに交際こうさいをしたひとすくなく、いい作品さくひんができたときは
さかずきの輪廻 (新字新仮名) / 小川未明(著)
否定せられるのはただ矮小なる物質的福利あるいは名利みょうりの念を内容とする生活であって、偉大なる人類的価値を目ざすところの超個人的な生活そのものではない。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
この点については我輩わがはいも氏の事業を軽々けいけい看過かんかするものにあらざれども、ひとあやしむべきは、氏が維新のちょうきの敵国の士人と並立ならびたっ得々とくとく名利みょうりの地位にるの一事なり
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
名利みょうりを思うて煩悶絶間なき心の上に、一杓いっしゃくの冷水を浴びせかけられたような心持がして、一種の涼味を感ずると共に、心の奥より秋の日のような清く温き光が照して
我が子の死 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
聡明そうめい驚くべく、学は顕密をべ、もっとも止観にふかかったと云われている。真の学僧気質かたぎで、俗気が微塵みじんほども無く、深く名利みょうりにくんで、断岸絶壁の如くに身の取り置きをした。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
いやはや何と申してよいやら、浅ましいのは人の世の名利みょうり争いではございますまいか。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
あらゆる名利みょうりを忘れて争ふこの格闘心理といふものが、釣りのクライマツクスだ。
釣心魚心 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
名利みょうりの欲望を脱却すべきを説く条など、平凡な有りふれの消極的名利観のようでもあるが、しかしよく読んでみると、この著者の本旨は必ずしも絶対に名利を捨てよというのではなく
徒然草の鑑賞 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「残念なのは修業者の来ることだ、わしは世捨て人じゃ、俗世の名利みょうりをきれいに捨てて来たのじゃ、山中に身を隠して、誰にも知られず余生を楽しみたい、できれば神仙に化したいと思っておる」
似而非物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
別号を宗和そうわ、または隠月翁いんげつおうなどと称して、漁師の子たちに、手習いを教え、自らは独り余生を名利みょうりの外に楽しんでいた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
真理の世界の確立が畢竟ひっきょうの目的である。行者自身のために真理を求めてはならない。名利みょうりのために、幸福のために、霊験を得んがために、真理を求めてはならない。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
ついに旧政府を倒して新政府を立てたるその際に、最初はおのおのその藩主の名をもってしたりといえども、事成るの後にいたり、藩主は革命の名利みょうりにあずかるを得ずして
徳育如何 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
いやはや何と申してよいやら、浅ましいのは人の世の名利みょうり争ひではございますまいか。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
山家に住んで、ちと小難こむずかしげな書物など飾りたてておれば、田舎武者には、さも、めずらしかろう。——世の名利みょうり
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「鈍才も尊い。黙って、地下百尺にうずもれたまま、事成る日まで圭角けいかくを見せぬものは、名利みょうりの中に仰がれる才物より、どれほど、たのもしいか分らない」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いまこそは何人なんぴとでもあれ、自我じが名利みょうりをすて、のため、あわれな民衆みんしゅうのために、野心やしんの群雄とならず、領土慾りょうどよくに割拠しない、まことの武士もののふがあらわれなければならないときだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
芸妓げいこの酌で置炬燵おきごたつも遊びの味なら、みぞれ雲に撥のえを響かせて、名利みょうりや殺刃や術策や、修羅しゅら風雲の流相るそうをよそに、こうして磧の夜霜から、およそ人間のすること、いたされることを
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ともすれば、愛慾の広海こうかいに溺れ、ともすればまた、名利みょうり大山たいせんに踏み迷っている凡夫なのじゃ、聖者などとは、滅相もない過賞、幼なじみのおん身にいわれては、この愚禿ぐとくこそ、穴にも入りたい
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
名利みょうりを捨て去った人間というもの程どうにも動かし難いものはない。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あらゆる名利みょうり名聞みょうもん、また一切の我慾と他慾を——
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)