おんな)” の例文
兄さん、これは妹の親切ですか義務ですか。兄さんは先刻さっきそういう問を私におかけになりました。私はどっちもおんなじだと云いました。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ギンは一しょうけんめいに二人を見くらべましたが、二人とも顔もせいも着物もかざりも、そっくりおんなじで、ちっとも見わけがつきません。
湖水の女 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
「猟場番人の、お前の亭主がどうしたのじゃ? お前らの言うことはいつもいつもおんなじじゃ。何かが納められないのじゃろう?」
「やっぱりそれも釣瓶鮨屋とおんなじようなものじゃないかな。謡曲に『二人静』があるんで、誰か昔のいたずら者が考え付いたことなんだろう」
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
みんな、お気の毒だって、やっぱり今の、あの海老屋の寮で養生をして、おんなじ部屋だわ。まわり縁の突当りの、丸窓の付いた、池に向いた六畳よ。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひょっとこれがさかさまで、わたしが肺病で、浪の実家さとから肺病は険呑けんのんだからッて浪を取り戻したら、おっかさんいい心地こころもちがしますか。おんなじ事です
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
繼「そうして斯う男と女と二人で一緒に寝ますと、肌をふれると云って仮令たとえおかしな事は無くっても、訝しい事が有るとおんなじでございますとねえ」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
『それはほんとにだめですよ。つまり君の方でいうと鉛筆で書いたスケッチとおんなじことで他人ひとにはわからないのだから。』
忘れえぬ人々 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「このお多福古いもんだすな。何年經つてもおんなし顏してよる……大かたをツさんの子供の時からおますのやろ。」
鱧の皮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
お頭があって小頭があって、規則があって制裁がある。不足もあれば生活難くらしにくくもある。案外娑婆とおんなじだなあ
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「清ちゃん、お前じゃけに、打ちあける。実は、兄夫婦が、いつも、銭を入れとる箪笥たんすがある。その箪笥の鍵は、嫂が持っとる。その鍵とおんなじ鍵が欲しいとじゃ」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
とりわけてこれとふ……何處どこもみんなおんなじですがね。……だが、あのほしくにへあそびにつて、よひのうつくしい明星樣めうじやうさまにもてなされたのだけは、おらが一しやうだい光榮くわうえい
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
『然うですか! ぢや何ですね、貴女と僕とおんなじ家に行くんで! これは驚いた。』
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「井田君、君は初めて他人ひとの家に泊る時でもおんなじ樣に寢られますか」
半日 (旧字旧仮名) / 有島武郎(著)
「外の人にはこんな話は出来ません。長年気心も知り合つて家内うちの人もおんなじのお前さんの事だから、私もお話を為るのですけれどね、困つた事が出来て了つたの——どうしたら可からうかと思つてね」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「そりゃ、何年か連添うた女房だもの、少しは思いもするさ。斯うしていても忘れられないこともある。けれども最早いくら思ったって仕様がないじゃないか。宮ちゃんの、その人のことだっておんなじことだ。」
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
みんなおんなじ顔なのでございます。
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)
おんなじぐらいだろ」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私の量はおんなじだ
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
「じゃあ、そいつもおんなじこったなあ。」と車掌は考え込むように言った。「おれだってまるっきりわかんねえんだからな。」
「お重また怒ったな。——佐野さんはね、この間云った通り金縁眼鏡きんぶちめがねをかけたお凸額でこさんだよ。それで好いじゃないか。何遍聞いたっておんなじ事だ」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
昼でも暗いのだから、暮合くれあいおんなじさ。別に夜中では無し、私は何にも思わなかったんだが、きまって腕車くるまから下りる処さ、坂の上で。あの急勾配だから。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「このお多福古いもんだすな。何年つてもおんなし顔してよる……大かたをツさんの子供の時からおますのやろ。」
鱧の皮 (新字旧仮名) / 上司小剣(著)
「何んて因果な野郎だろう、心臓をえぐり取られるとは。そんな病気って有るもんだろうか?……つまり蛙とおんなじさね。内臓を出して洗うんだからな。おや!」
人間製造 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「勿論君とおんなじさ」と彼は言下に勇ましく答えたものです。私は中学の一年頃から、将来文科大学を卒業して、偉大なる芸術家になるのだと揚言して居たのです。
金色の死 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「いいえ、あのだけは二た月ばかり前から、この対岸むかいにいるんです。あなたでもおんなじですけれど、こんなになると、情合はまったく本当の親子と変りませんわ」
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
容色きりょうも悪くはなし年だって私とおんなじなら未だいくらだって嫁にいかれるのに、ああやって一生懸命に奉公しているんだからね。全く普通なみものにゃ真似まねが出来ないよ。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
山「なにそんな事は有りません、おかしい事が無くておんなじと云うわけは有りやアしません……だからいけない、互に観音様へ参る身の上だから、せんに私が別に寝ようと云ったんだ」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
『然だ、おんなじ風に吹かれて一緒に鳴り出したんだ。』
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「すまんこたない。おれもおんなじよ」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
肯定の返事をすると、「じゃあこれとおんなじ葡萄酒をもう一パイントおれに持って来てくれ、給仕。それから十時になったらおれを起しに来てくれ。」
ありゃ名でもっておんなじような申分のあるのが出来るのは、土地に因るんだとね。かえって利口なのも有るんだって。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「なぜでも、ちゃんとつまるんです。画なんぞいたって、描かなくったって、つまるところはおんなじ事でさあ」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こんなにもおんなじ顔かしら? 初めて知ったよ、面白くもない、口惜しかったら物を云ってごらん。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
其様そん叮嚀ていねいな事を云っちゃアいけねえ、マア早い話がい、新吉、三藏さんと云ってな、小質こしちを取って居るうちの一人娘、江戸で屋敷奉公して十一二年も勤めたから、江戸子えどっこおんなし事で
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「はじめよりか幾らか違ふやうですが、でも昨日きのふと較べたらおんなじです。」
赤い鳥 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
『お産をするとおんなじだね』
火星の芝居 (新字新仮名) / 石川啄木(著)
貴下は、もう、今じゃこんなにおなりですから、私は要らなくなったでしょうが、私は今も、今だって、その時分から、何ですよ、おんなじなんです、謹さん。
女客 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ただ「へえ、やっぱりおんなじ病気でね。お気の毒だね。いくつでお亡くなりかえ、そのかたは」などと聞いた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
本「左様そうですが天道干てんとうぼしという奴ア商いの有無あるなしに拘わらず、毎晩めいばんおんなとけえ出て定店じょうみせのようにしなけりゃアいけやせんから、寒いのを辛抱して出て来たんですが、雪になっちゃア当分喰込みです」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その鳥の羽根は、ウイリイがせんにひろった羽根とおんなじ羽根でした。ウイリイは、犬からおそわっていたので、そっとその鳥のそばへ行って、しっぽについている、一ばん長い羽根を引きぬきました。
黄金鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
「おい、こいつアおんなじだ」
銀三十枚 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
按摩だ、がその按摩が、もとはさる大名に仕えた士族のはてで、聞きねえ。私等が流儀と、おんなじその道の芸の上手。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どうせ誰を持って行っても気に入らない貴方なんだから、つまり誰を持たしたっておんなじだろうって云う訳なんです。貴方にはどんな人を見せても駄目なんですよ。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
花をして置きさえすれば宜しい、何処どこへ葬ってもおんなじだが、因縁とかなんとか云うので、お久の伯父さんを便たよって二人で逃げて来て、師匠の祟りで殺したくもねえ可愛い女房を殺したのだが
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
こちらのよりも稍古りた疊の端が見える外には何一つ異つた容子もない。もとよりそれ以上中を覗き込む事は出來ない。じつと立つて耳を澄まして見たが、もう平生とおんなじに何の話し聲も聞えない。
女の子 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
土手など通ると、余所よそが母親に手をかれてくのを見たり、面白そうに遊んでいるのを見るたびに、おんなじ人間がなぜだろうと、思わぬ時といってはない。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うせだれつてつてもに入らない貴方あなたなんだから、つまりだれたしたつておんなじだらうつて云ふ訳なんです。貴方あなたにはんなひとを見せても駄目なんですよ。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
かぢ「いけませんよ、まア戴いたもおんなじことですから許して下さい」
「何、どうでもいゝよ。おんなじだもの。」
赤い鳥 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)