剰銭つりせん)” の例文
旧字:剩錢
それからもう一つは、瓦斯屋ガスや電気屋、これが勘定を晦日みそかに取りに来ないで月央つきなかの妙な時に取りに来るばかりかまず大抵たいてい剰銭つりせんを持っていない。
独居雑感 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その剰銭つりせんで、どこかで冷酒ひやざけの盗み飲みをした宅助は、やっと虫が納まって、ふらつくのを、無理に口を結んで帰ってきたが、周馬や一角や孫兵衛は、まだ湯どうふ屋の見晴らしに
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今しがた剰銭つりせんにとった永楽銭が一枚、右手の食指しょくし拇指ぼしの間に立てて、ろくに狙いも定めずピュウと投げると、手練は恐ろしいもので、身を投げようとする男の横鬢よこびんをハッと打ちます。
「これじゃ、お剰銭つりせんがねえがの。いまちょうと細けえのがねえんで——」
食べもの (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
極楽ごくらくから剰銭つりせんとしで、じやうぬまをんなかげ憂身うきみやつすおかげには、うごく、はたらく、彫刻物ほりものきて歩行あるく……ひとりですら/\と天守てんしゆあがつて、魔物まものねや推参すゐさんする、が、はり意地いぢいてるぞ
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「そうよ。日活にっかつヨウさんに取られてしまったのよ。」とはなし出した時会計の女が伝票と剰銭つりせんとを出す。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
耳の遠い髪のくさい薄ぼんやりした女ボーイに、義務的のビールや紅茶を命ずる面倒もなく、一円札に対する剰銭つりせんを五分もかかってもって来るのに気をいら立てる必要もなく
銀座界隈 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
耳の遠い髪の臭い薄ぼんやりしたおんなボオイに、義理一遍のビイルや紅茶を命ずる面倒もなく、一円札に対する剰銭つりせんを五分もかかってもつて来るのに気をいら立てる必要もなく
銀座 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
煙草を買いに出させるたびごと剰銭つりせんを祝儀にくれたお客にも会って見たくなった。
羊羹 (新字新仮名) / 永井荷風(著)