内所ないしょ)” の例文
内所ないしょで手分けをして探していましたが、眼と鼻の間のこんなところに隠れていようとは、今の今までちっとも知りませんでした。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
此の類焼やけの中で又しても/\そう/\内所ないしょはなしをした処が、おまはんが年季を増したのも幾度いくたびだか知れない、亭主のためとは云いながら
内所ないしょで何かよくないことをしたものは、大抵ここで泥を吐いてしまう。さもないと頂上まで登れないで必ず途中でへたばるということです。
木曾御岳の話 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
時には、父親に内所ないしょで、財布の底をはたいて小遣いを置いて来ることなどもある。それを父親は母親から引き出してつかった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
内所ないしょといわれる主人の部屋で、おてつに向って云っているらしい。酔って高いだみごえでやけにどなるような調子だった。
契りきぬ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「庄屋の旦那が、貧乏人が子供をまちの学校へやるんをどえらい嫌うとるんじゃせにやっても内所ないしょにしとかにゃならんぜ。」
電報 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
婆やも立ち上がりはしたがその顔は妙にえなかった。そして台所で働きながらややともすると内所ないしょで鼻をすすっていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「それじゃ何か近いうちに、恐ろしいことが起こって来るぞ」「内所ないしょでもそれを心配して、ご相談中なのでございますよ」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
……あっしは内所ないしょへ床を敷かせて寝ましたが、疲れていたもンでついさっき叩きおこされるまで、なにも知らずにグッスリと眠っていたんですが
顎十郎捕物帳:18 永代経 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それときまっては、内所ないしょの飼猫でも、遊女おいらんの秘蔵でも、遣手やりて懐児ふところごでも、町内の三毛、ぶちでも、何のと引手茶屋の娘のいきおい
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「わしにも、手が、廻って来たらしい。今、川上から、内所ないしょで知らせて来てくれたが——わしは、出奔しよう。ここにおっては、危いかもしれん」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
町家の新造のような、それでいて寺侍の内所ないしょのようなちょっと為体の知れない風俗つくりだったが、どっちにしてもあまり裕福な生活の者とは踏めなかった。
御贔屓ごひいきの御座敷や何かで、不時の収入みいりがありますと、内所ないしょで処かまわず安い芸者を買い散らしたもんで御在ます。
あぢさゐ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
細君は夫に内所ないしょで自分の着物を質に入れたついこの間の事件を思い出した。夫には何時自分が兄と同じ境遇に陥らないものでもないという悲観的な哲学があった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おせんにゃもとより、内所ないしょしてわたした品物しなもの今更いまさらきゅうかえほどなら、あれまでにして、ってきはしなかろう。おかみさん。おまえ、つまらない料簡りょうけんは、さないほうがいいぜ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
恋女房であろうとも、家の者となればあしらいも違う、まして人気商売ということによって、いかな口実もつくられる。その上に内所ないしょは苦しい、お鯉のお宝は減るばかりだった。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「さあ、それでは内所ないしょでたずねて参りますから、ともかくお上りくださいまし」
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
お医者には内所ないしょで少しばかり書きつけて見ましょう。
産屋物語 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
そこで内所ないしょでわたくしを呼んで、その次郎兵衛のゆくえを探し出してくれ、それで無いと、自分の顔が立たないと云うのです。
その客を済ませたあと、宿の内所ないしょで女中たちと話していると、角庄から呼びに来た。これも馴染で、去年の春にいちど呼んだことがあるそうであった。
榎物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
お話二つに分れて、松葉屋に抱えになりました鋏鍛冶金重の娘お富は、まだ目見え中でございますが、目見え中と云うものは主人が内所ないしょに置いて様子を見ます。
そこには紙幣が入っていた。五円札と、五十銭札と、一円札とが合せて十円ぐらい入っている。母が、薪出しをしてためた金を内所ないしょで入れといてくれたのだろう。
渦巻ける烏の群 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
「そうか、それじゃ最初から聞き直そう。で、御前が兄のうちへ行ったんだね。おれに内所ないしょで」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こういう時には何か一首うま落首らくしゅでもやって内所ないしょでそっと笑っているが関の山で御座います。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
余計よけいなお接介せっかいのようだが、今頃いまごろ太夫たゆうは、おび行方ゆくえさがしているだろう。おまえさんのたこたァ、どこまでも内所ないしょにしておこうから、このままもう一ってかえってやるがいい
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
葉子に内所ないしょで「報正新報」を倉地に取り次いだのは、たとい葉子に無益な心配をさせないためだという倉地の注意があったためであるにもせよ、葉子の心持ちを損じもし不安にもした。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そのうちの幾らかで酒と肉とを買って内所ないしょで囚人にも馳走してやると、それから五、六日経って、囚人は又ささやいた。
自来也の話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
黒江町の堀に面した「ちづか」という料亭のお内所ないしょで、その家の小さな娘の、お民が相手であった。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「奥さん。妙な事をお話するようですけれど……何もも明けッぱなしにお話しをしましょう。」と相手の顔色とあたりの様子とをうかがいながら、「これはほんとに内所ないしょのお話ですよ。 ...
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一体酒がすきで旅をするには一杯飲めば気が晴れるから、宿で一杯出せば尼様に隠して内所ないしょで飲むこともある、これは/\有難う……えゝお前はまア姉弟衆きょうだいしゅう二人ながら仲よう稼ぎなさる
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ちょうさんの話では御前さんが月々いくらいくらわたしるという事だが、実際御前さんの、呉れるといった金高かねだかはどの位なのか、長さんに内所ないしょでちょっと知らせてくれないかと書いてあった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
堪忍かんにんしておくんなさい。あたしゃ内所ないしょ用事ようじでござんすから。……」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
内所ないしょごとのように柿本が声をひくめた。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
内所ないしょで清さんに訊いて見たんですけれども、あの人も一と足先へ帰ったあとで、なんにも知らないと云うんです。
半七捕物帳:02 石灯籠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
得石がはいってゆくと、小女こおんなが出て来、吃驚びっくりしたように奥へとんでいった。すると、内所ないしょの障子をあけて、おかねが出て来た。得石は女の顔が赤くなっているのを認めた。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
わたしがこの質屋の顧客となった来歴は家へ出入する車屋の女房に頼んで内所ないしょでその通帳を貸してもらったからで。それから唖々子と島田とがつづいて暖簾のれんをくぐるようになったのである。
梅雨晴 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それからわたくしも心得違いをして、表向おもてむきは師匠と食客ですが、内所ないしょは夫婦同様で只ぶら/\と一緒に居りました、そうすると此処こゝへ稽古に参ります根津の総門内の羽生屋と申す小間物屋の娘がその
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
おれ内所ないしょで島田に金をられたのを気の毒とでも思ったものかしら」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あるひは寺の僧に関係があつて、内所ないしょかくまはれてゐるか。おそらく二つに一つであらうと亭主は想像した。しかし寺僧じそうは老人で、女犯にょぼんの関係などありさうにも思はれない。
小夜の中山夜啼石 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
内所ないしょは火の車さ、おれの婿縁組も先方じゃあ金がめあてなんだ、へっ」房二郎は肩をすくめた、「おれだって男だ、持参金なんぞ背負っておめおめと婿にいけるかい、そうだろう木内さん」
へちまの木 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そりゃ伊之さんとの交情なかもよく知っているから、今までは他の人達がなんのかのと言って意見しているのを知らず顔でいたんだがね、今日のように内所ないしょで折檻されるを何うも見てはいられないから
それだから内所ないしょでおめえにだけは話して聞かせる。だが、世間には沙汰無しだよ。
半七捕物帳:16 津の国屋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そこで、失礼ながらそちらの都合が悪ければ、こっちで内所ないしょで立て替えて置いてもいいから、表向きは本人または身許引受人が償ったていにして、この一件の埒をあけてくれろと頼むように言った。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
内所ないしょで書いていた長い手紙には、遣瀬やるせない思いの数々を筆にいわしていたかも知れない。彼女がくもった顔をしているのも無理はなかった。そんなこととは知らない私は、随分大きな声で彼女を呼んだ。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)