せん)” の例文
れ永楽帝のおそうれうるところたらずんばあらず。鄭和ていかふねうかめて遠航し、胡濙こえいせんもとめて遍歴せる、密旨をふくむところあるが如し。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
せんと云う下女が来て、昨夕ゆうべ桂川かつらがわの水が増したので門の前の小家こいえではおおかたの荷をこしらえて、預けに来たという話をした。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しんならず、せんならずして、しかひと彼處かしこ蝶鳥てふとりあそぶにたり、そばがくれなる姫百合ひめゆりなぎさづたひのつばさ常夏とこなつ
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ここまで行くとおせんははっと言葉を切りました、うっかり倅の定吉——あの智恵の足りない定吉に、あらぬ疑いが行ってはならぬと思ったのでしょう。
仙梅日記せんばいにっき』には駿州うめしませんまたの旅行において、一人の案内者が山中さんに話した。雪の後に山男の足跡を見ることがある。二尺ほどの大足である。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
やがて三十七、八であろうが年の割に老けて見えるらしい女が、番町の青山播磨の屋敷の台所口に立って、つつましやかに案内を求めると、下女のおせんが奥から出た。
番町皿屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
然し斯様こんな特別のは別にして、彼が村居そんきょ六年の間に懇意こんいになった乞食が二人ある。せんさんとやすさん。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
やがてはわがその頃の作品の批判に移りて、かかる種類のものにては笠森かさもりせんが一篇ことば最もおだやかにこころ最もやはらかに形また最もととのひしものなるべしと語られけり。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
振り向いてみると、同じ長屋にいる屠牛場のせんさんだった。仕事場からの帰りとみえて、仙吉は片っぽの手に竹の皮包みをぶらさげて、少し異様な眼をして彼を見つめた。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
持ツて来ます爺やから取りましたのでございますが、さう申しては不躾ですけれども、十せんに二枚でございます。家にじツとしてゝ取ります方が、の位おやすいか知れませんです。
元日の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
その隙に盗賊はみるみる遠ざかったので、またあとを追うて行ったが、邪魔な首をふところへ入れてしまったせいか、男の逃げ足の速さはにわかにしんせんようか、人間とは思えなんだ。
猿飛佐助 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
ふたりは思い思いの憂欝ゆううつをいだいて家へ帰った、母は戸口に立ちどまって深いいきをついた、かのじょ伯母おばのおせんをおそれているのである、伯父は親切だが伯母はなにかにつけて邪慳じゃけんである
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
中学校の時には、この句は、ただ、親しい友が遠くから、ひょっこりたずねて来てくれるのはうれしいものだ、というだけの意味のものとして教えられた。たしかに、漢文のガマせんが、そう教えた。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「李白一斗詩百篇、みずかしょうしんはこれ酒中しゅちゅうせん
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
花賣娘はなうりむすめはおせん
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
ただ一つ、お絹には、姉によく似たおせんという妹があり、同じ両国の水茶屋に奉公して、艶名を謳われて居りましたが、姉を変死させた江島屋の宗三郎を
猟色の果 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
鏡にむかうときのみ、わが頭の白きをかこつものは幸の部に属する人である。指を折って始めて、五年の流光に、転輪のおもむきを解し得たる婆さんは、人間としてはむしろせんに近づける方だろう。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
このいきおいにおされておせんはぶつぶついいながらもやはり働きだした。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
しんか、せんか、ようか」
猿飛佐助 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
元の座頭久米くめせん八の女房で、女の曲藝師としてその美しさを鳴らしましたが、亭主の仙八の死んだ後は、進んで樂屋の雜用を引うけ、近頃ぐん/\人氣の出て來た
神田明神前にささやかな水茶屋を営んで居る仁兵衛じんべえの娘お駒、国貞くにさだの一枚絵に描かれたほどの美しさで、享保明和の昔の、おせんふじにも優るだろうと言われた評判娘が
黄金を浴びる女 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「今ここへ見えたのは、十軒店じゅっけんだな八百徳やおとくの主人だ。一人娘のおせんを、同じ商売仲間の末広町すえひろちょう八百峰やおみねの跡取り息子に嫁にやるについて、俺の力が借りたいと言うのだよ」
「今ここへ見えたのは、十軒店じゅっけんだな八百徳やおとくの主人だ。一人娘のおせんを、同じ商売仲間の末広町すえひろちょう八百峰やおみねの跡取り息子に嫁にやるについて、俺の力が借りたいと言うのだよ」
徳川末期の江戸を彩った、血みどろの世界が、「団七九郎兵衛だんしちくろべえ」になり「稲田新助いなだしんすけ」になり、「直助権兵衛なおすけごんべえ」になり、そして怨を含んで殺されて行く「笠森かさもりせん」の美女殺戮の図となったのです。
芳年写生帖 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)