乃公わし)” の例文
韓さんはそんなだつたら乃公わしが往つても、もう駄目だらうからツて、来てはくれませんでした。お蔭で私は生命拾いのちひろひをしました。
乃公わしの打診は何処をたゝいても患者の心臓しんぞうにピーンと響く、と云うのが翁の自慢である。やがて翁は箱の様なものをかかえて来た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
しからん、庭に狐が居る、乃公わしが弓を引いた響に、崖の熊笹くまざさの中から驚いて飛出した。あのへんに穴があるに違いない。」
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
宜しいお前達につて了う。たゞ五分の一だけ呉れろ、乃公わしは其をもつて北海道に飛ぶからつて。其処で小僧がこゝのつの時でした、親子三人でポイと此方こつちへやつて来たのです。
空知川の岸辺 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
へい/\……いたしまして、此通このとほきたなうございますから……。主「まアいよ/\……此処こゝを明けて置いては、雪がむからはや此処これへおはいり、……乃公わしが寒いから……。 ...
「いや、こんなことはまちがいの起り安いものだから、乃公わしがする」
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「折角の企てぢや、劇場こや乃公わしが何とか心配する事にしようが、出し物が大石なら、ついでに喜剣を河内屋に附き合つて貰つたらうぢや。」
これは恐入おそれいつたね、おまへはお茶人ちやじんだね、あゝこれ/\の悪いぜんに、……むか付肴づけ残余のこつてるのをけて、おしるけてチヨツと会席風くわいせきふうにして……乃公わしもね茶道ちやきだからね
乃公わしが何を知るものか、今日釣に行っていたが老先生は何にも言わんからの」
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「いやいや、そんな積りで言つたのぢやない、乃公わしらが若い時には、骨なぞ食べ残すやうな事はしなかつたと言つた迄さ。」
エ、侯爵面こうしゃくづらして古い士族を忘れんなと言え。全体彼奴あいつ等に頭を下げぺこぺこと頼み廻るなんちゅうことは富岡の塾の名汚なよごしだぞ。乃公わしに言えば乃公から彼奴等に一本手紙をつけてやるのに。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
……乃公わしところ今日けふ小供ばう袴着はかまぎ祝宴いはひがあつて、いま賓客きやくかへつたが少しばかり料理れうり残余あまつたものがあるが、それをおまへげたいから、なにか麪桶めんつうなにかあるか、……麪桶めんつうがあるならしな。
「だがの、今朝眼がさめて自分の寝相ねさうを見ると、乃公わし身体からだ寝台ねだいの外にみ出してゐて、まるでワツフル(お菓子)のやうだつたよ、はゝゝゝ……」
「そうか、今度ったら乃公わしく言ったと言っとくれ!」
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
主婦かみさん、乃公わしはこゝで一寸天文学の講釈をするがね、すべてこの世界にある物は、二千五百万年経つと、また元々もと/\通りにかへつて来る事になつてゐる。
劇場こやなら乃公わしが心配しよう。」それ迄黙つて二人の談話はなしを聴いてゐた実業家は、横つちよから口を出した。
「こゝに金十円と書いてあるが、乃公わしの書に十円といふ値ぶみはどこから附けたね。」
してみると、乃公わしらも二千五百万年後には矢張今のやうにお前さんの店で午飯ひるめしを食つてゐる筈なのだ。ところで、物は相談だが、この勘定をそれまでかけにして置いては呉れまいかね。
「人間の心はその儘顔に現れるものだ。乃公わしはかうして自分を戒めてゐるのだ。」
手品には失敗したが、巧い事を言つたもので、少将と蕃山と左源太とは、各自めいめい肚のなかでは、「その偉い器量人は多分乃公わしだな。」と思つたらしかつた。この人達にだつて自惚うぬぼれは相当にあつたものだ。
手品師と蕃山 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)