“上(う)” の例文
『知らぬ顔していればよいのです。それを環ごとき若輩者が、要(い)らざる出洒張(でしゃば)りをしたればこそ、恥の上(う)わ塗りをしでかしたのだ』
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
意久地なしの鼻は高くても低く見え、図々しい奴の鼻はヒシャゲていてもニューと上(う)わ反(ぞ)りになっているかの表現をしております。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
上(う)えの方に白い線をのせて目の前に立つと、その上の方が、段々と下を向いて来て、終に、砂の上にひどい音と共にめちゃめちゃに砕ける。
冬の海 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
そして、何となく様子のちがつたゆつくりさで登つて来る盛子の、上(う)は目になつた、意味ありげに笑つてゐる顔を見た。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
腰ごろもの觀音さま濡れ佛にておはします御肩のあたり膝のあたり、はら/\と花散りこぼれて前に供へし樒(しきみ)の枝につもれるもをかしく、下ゆく子守りが鉢卷の上(う)へ
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その影法師が大きく映る、という場面が全篇の最頂点になるのであるが、この場面だけはせめてもう一級だけ上(う)わ手(て)の俳優にやらせたらといささか遺憾に思われたのであった。
映画雑感(Ⅵ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「僕より、あの女の方が上(う)わ手(て)でさあ」「あなただって御負けなさる気遣(きづか)いはありません」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「僕がしましょう。」興奮の余りに、上(う)わ調子になった声で、チルナウエルが叫んだ。
「地主さんより上(う)ワ手(て)だ。——地主さんはそう悪くないんだ。吉本よ、あの蛇吉よ!」
不在地主 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
『さうかい。それならば』と老人は上(う)は手(て)に出てゐた。
南京六月祭 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
袖口だけに刺繍(ぬい)のある裾短(すそみじ)かな繍(ぬい)の上(う)わ着(ぎ)、洒落者(しゃれもの)とみえて、黒紗(くろしゃ)の卍頭巾(まんじずきん)には、紅紐(べにひも)で結(ゆ)ッた髷(まげ)が紅花みたいに透いてみえる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
腰ごろもの観音さま濡(ぬ)れ仏にておはします御(おん)肩のあたり膝(ひざ)のあたり、はらはらと花散りこぼれて前に供へし樒(しきみ)の枝につもれるもをかしく、下ゆく子守りが鉢巻の上(う)へ
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そのきよろりとした眼はすつかり開けひろげられ、一種上(う)はずつた色が動いてゐた。何となく落ちつかない様子で上半身をぐらりとさせ、無意識に片腕を振り降した。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
それを恥かしいとも思わないで、今一枚上(う)わ手(て)の名誉狂、兼、研究狂である吾輩を捉まえて、キチガイ呼ばわりをするんだから、片腹痛からざるを得ないではないか。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
近所の顔と顔の一トかたまりは、みなベソを掻(か)き掻き、いやおうなしに、ただ杯を上(う)わの空(そら)に、上げたり措(お)いたりしているに過ぎなかった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
腰(こし)ごろもの觀音(くわんおん)さま濡(ぬ)れ佛(ぼとけ)にておはします御肩(おんかた)のあたり膝(ひざ)のあたり、はら/\と花散(はなち)りこぼれて前(まへ)に供(そな)へし樒(しきみ)の枝(えだ)につもれるもをかしく、下(した)ゆく子守(こも)りが鉢卷(はちまき)の上(う)へ
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
けれども、何かしら気になつて、顔を紐か何かで上(う)は向きにひつぱられるやうであつた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
死なぬ者が、かえって上(う)わ逆(ず)っているのだ。細川家の人々は皆、足を浮かしていた。あわてて煙草盆をそこへ運んで行った日頃なじみの小坊主は
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おやじはその上(う)わ書(がき)と彼の姿をじっと見くらべ、急に物腰をあらためてこう言いだした。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
均斉(きんせい)のとれた四股(し)、筋肉(きんにく)の見事さ。春とは見ちがえるばかり上(う)わ背丈(ぜい)も育っている。
織田家の大老たり、首脳部の首席にある者の当然な任は何よりも明智討伐にあったのだが、そのことがすでに秀吉の手で終った今日では、何が最大な急務か、また、秀吉の上(う)わ手に臨みうる策か。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
上(う)わずったことばがめいめいの口から不統一に吐き散らされた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
猪首(いくび)をかがめて、上(う)わ眼(め)で、高氏を睨むように見た。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)