一夏ひとなつ)” の例文
私は折々亡くなった父や母の事を思い出すほかに、何の不愉快もなく、その一夏ひとなつを叔父の家族と共に過ごして、また東京へ帰ったのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
女流文学者として盛名を伝へられてゐる某女史が、一夏ひとなつ男の友達五六人と、信州辺のある山へ避暑旅行を企てた事があつた。
で、はて亭主ていしゆが、のみけるためののみつて、棕櫚しゆろ全身ぜんしんまとつて、素裸すつぱだかで、寢室しんしつえんしたもぐもぐり、一夏ひとなつのうちに狂死くるひじにをした。——
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おじいさんは、常夏とこなつおおきなあめてないようにしました。また、かぜつよは、そとさないようにしました。こうして、一夏ひとなつすぎましたけれど、常夏とこなつはそうおおきくはなりませんでした。
花と人間の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
彼等は未来の健康のため、一夏ひとなつさきに過すべく、父母ふぼから命ぜられて、兄弟五人で昨日きのうまで海辺うみべけ廻っていたのである。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一度いちどは、あまりのくるしさに、三國沿岸みくにえんがんで……げて……いや、これだと女性ぢよせいちかい、いきなり飛込とびこんでなうとおもつた、とふほどであるから、一夏ひとなつ一人旅ひとりたびで、山神さんじんおどろかし、へびんで
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
私はこの一夏ひとなつを無為に過ごす気はなかった。国へ帰ってからの日程というようなものをあらかじめ作っておいたので、それを履行りこうするに必要な書物も手に入れなければならなかった。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
が、一夏ひとなつ縁日えんにちで、月見草つきみそうを買って来て、はぎそばへ植えた事がある。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)