明治三十年の頃僕麹町一番町こうじまちいちばんちょうの家に親のすねをかじりゐたり。門を出でて坂を下れば富士見町の妓家ぎか軒先に御神燈ごじんとうをぶら下げたり。御神燈とは妓の名を書きたる提灯ちょうちんをいふなり。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)