馬琴物ばきんものから雪中梅型せっちゅうばいがたのガラクタ小説に耽溺たんできして居た余に、「浮雲うきぐも」は何たる驚駭おどろきであったろう。余ははじめて人間の解剖室かいぼうしつに引ずり込まれたかの如く、メスの様な其筆尖ふでさきが唯恐ろしかった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)