蠅取はえと)” の例文
この摂氏四十度の暑さと蠅取はえとり紙の場面には相当深刻な真実の暗示があるが、深刻なためにかえって検閲の剪刀せんとうを免れたと見える。
映画雑感(Ⅳ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その中で覚えず笑い出してしまった最も愉快な場面は、犬が蠅取はえとり紙に悩まされる動作の写真的描写である。
映画雑感(Ⅲ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それでちょっとでも身動きしようとするとこの飴が痛むからだには無限の抵抗となって運動を阻止する。蠅取はえとがみにかかった蠅の気持ちはこんなものかという気がする。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
近代になって、これが各種の伝染病菌でんせんびょうきん運搬者うんぱんしゃ播布者はんぷしゃとして、その悪名を宣伝せんでんされるようになり、その結果がいわゆる「蠅取はえとりデー」の出現を見るにいたったわけである。
蛆の効用 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
女主人公が穴蔵へ引っ込んだあとへイルマが蠅取はえとり紙を取り換えに来る、それをながめていたおやじの、暑さでうだった頭の中に獣性が目ざめて来る。かすかな体臭のようなものが画面にただよう。
映画雑感(Ⅳ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)